第8話:「数字の魔術にだまされるな!!」

厚生省は数字の魔術をつかう。平成5年には老年者人口(65歳以上)1人に対して生産年齢人口(15〜64歳)は 5.1人の割合だったが、平成32年には 2.3人に減ってしまうという。しかし現在高校進学率はほぼ100% 近いし、短大を含め大学進学率は既に 50% を越えている。また 65歳を越えても元気で働いている高齢者は多い。統計に生産年齢人口(15〜64歳)や老年者人口(65歳以上)を持ちだす事に、どれほどの意味があるのだろうか?


この点についてもっと実用的な数字は、[非労働人口/労働人口]で得られるものと考えられるが、推計するのに各種の制限要因があり実際の数値を求めるのは困難だろう。次善の方法として、
X=[(18歳以下人口)+(65歳以上人口)/(19〜64歳の実労働人口)]
を求めてみよう。
この分母もなかなか推定の難しい部分(パート労働、主婦の家内労働、フリーターをどう数えるかなど)もあるが実用的な数に遠く離れない推定は可能と思われる。また、実労働人口は高齢者だけを扶養しているわけではなく、同時に妻(あるいは夫)、子を扶養していることからも、実労働人口への負担の重さを表わす指標として適切なものと考えていいだろう。


つまり「X」は、平成6年で約0.88、平成9年でも約0.88、平成36年の推定では0.73〜0.87〜1.03の範囲となる。平成36年では少子化、女性労働者の増加率、失業率などが問題となり、かなり広い範囲の推定とならざるを得ない。(最後のページに載せた表など参照)

大事なことは、この数字のなかに「来たるべき高齢化社会に向かって医療費の公費負担を削ったり、自己負担を増やしたり、介護保険を導入したり、社会保障にキャップ制を導入したり」する必然性が全く見えないことだろう。

2010年(平成22年)頃より、確かに65歳以上の高齢者が勢いよく増加する。現在の約2000万人は、平成32年には3000万人を突破するだろう。しかし、それに対して今国家が本当にやらなければならないことは、少子化対策であり、失業者対策であり、企業の倒産を防ぐことや労働人口への税金負担や保険料負担を軽減することであろう。高齢者福祉という錦の御旗をかかげ、子育てをはじめ生活費の負担が一番増加する世代に、既に平均42%もの国民負担(所得税、住民税、消費税、各種保険料など)を強いて来た(しかも財政赤字分を足すと50%を軽く越えている)からこそ、生活が苦しくなり、子育てや親の介護や看護が十分に出来なくなってきたのではないか。これからはもう行き過ぎた福祉は必要ないし、行政的な無駄遣いの多い公的支援施設なるものは、全く必要ないと言っても過言ではないだろうと筆者は思う。

また、厚生省の喧伝する高齢化社会は、2010年から2035年にかけて、たった25年間の一時的現象に過ぎない。その刹那的社会現象に向かって、政府は国民の負担を益々増やし、年金保障など各種社会保障費を削り、いわゆる『箱物福祉施設』を乱立させている。それらは利益の再配分、介護の社会化、将来への投資およびインフラ整備などという大義名分をふりかざしているものの、実体は役人の天下り施設以外のなにものでもない浪費施設なのである。それらの維持費や従業員の人件費も膨大な無駄として浪費されることは明らかだろう。行政の無駄を省かねばならない時、一体このやり方は何なのであろうか。筆者は医師会の誤りのない対応を期待するものである。医療・福祉はその立場上、国民とともに行政に翻弄され蹂躙されるおそれが最も高い分野であることを思う時、私たちは誤った喧伝に翻弄されることのなきよう、研鑽を重ねて行かなければならないと常に思っている。