第12話 【 乾 坤 一 擲 】
この国の税金体系は目茶苦茶。起業家のケツの毛まで毟り取ってゆくという感がある。私はこれまで精一杯コマネズミのように働いてきたが、国家がどんな仕打ちをしたか。目玉の飛び出るような累進課税(罰金)という懲罰的罰金を強制的に課してきた。固定資産税もそうだ。たまたま先祖から預かった土地の近くに国道という頼みもしない道ができたばかりに、固定資産税は年々シコシコとコッソリと、私たちの知らぬ間に得体のしれない非公開の委員とその委員会によって、これも非公開で闇雲の名目や理由で増税されてゆく。土地評価はどんどん低下している現在においてもである。
この国は政治献金の総元締め暴力的圧力団体の経団連(閨閥と財閥)と、無知無能捉われやすく(賄賂に弱く)強権的で政治と行政を私物化した残忍でゼニへの卑しさ丸出しの独裁官僚と官僚の小間使いに成り下がった卑怯で狡猾な自民党族議員と賄賂とやくざが支配しスパイが暗躍するお先真っ暗な魑魅魍魎の私物国家である。
この国では、我々平民が持っているはずの可能性(潜在能力)など全くなくなってしまい希望さえ失ってしまう。型にはめた教育で知識を制限し、幅広く持たねばならない知恵の取得を邪魔し、夢の実現や起業に必要な軍資金を累進課税(罰金)で搾取没収してしまう。今や日本はダイナミックな政治力学と経済活動がなくなってしまった。おまけに民主平等人権福祉という善意をちらつかせた(「地獄への道は善意で敷きつめられている」)共産主義的な荒唐無稽の空論が大手を振って闊歩する、卑しき社会主義礼賛国家という最低の国になり下がってしまった。ここに至って、私はこれからは如何に税金を払わぬように、盗られぬようにするかを人生の行動原則にしなければならないと思うようになった。ところで、最近親友(K君)の語った興味深い相続税対策の話を一つ。
その家(A家)では約2年前に、家長というべき93歳のジイサン(G氏)が亡くなったらしい。しかもA家の財産は、全てそのG氏の名義であったという。A家の事実上の跡継ぎである親友(K君)はかねてより、同居中のこのG氏に相続税対策を進言していたのであったが、わがままなG氏は一顧だにしなかった。このG氏には子供がいなくて、K君の父親と母親が養子・養女という形で養子縁組みをしていたそうだ。なおK君の兄弟は本人・妹・弟の3人である。じつは少しでも相続税対策を目指してK君が主導で強引に養子縁組みをさせていたというのが養子縁組みの真相らしい。またG氏は多少の現金を貯えていたが、数年前のG氏の奥さんと、3年ほど前からのG氏自身の闘病期間中に、付き添い費用等の色々な出費が嵩んで殆ど吐き出させておいたという。現金を残しても国家権力にぶんどられてしまうための賢い事前処置だったとK君は語っていた。
さてG氏が死んで、俄然相続税がK君の頭を悩ますことになった。父親とG氏の伴侶はすでに亡くなっており、G氏の死んだ時点で、ごく自然にK君の母親とK君を含めた兄弟姉妹3人で遺産相続できるはずだとK君は思っていたらしい。その計算では相続税の基礎控除額が5000万で、相続人4人(母親と兄弟姉妹3人)に1000万ずつ控除の加算があって、合計9000万の控除があれば、相続税合計は約3500万程となる計算だった。「これでもびっくり仰天、そんなゼニなんぞあるわけない」と顔を真っ赤に怒っていたK君の顔が印象的だった。さらに続けて言うには「残った資産ちゅうのは全部土地でそれも宅地と農地。この農地さえ全て宅地並み課税」らしい。K君は愕然として一時はやけっぱちになり相続放棄も考えたらしい。ところが会計士がよく調べてみると、養子縁組みの前に存在した子供には相続権はないのだという。この国の法律は一体なんなのだ!!
K君は気を取り直して、そうであるならと、あらためて相続税計算をすると、何と相続税控除額が母親の5000+1000で合計6000万にしかならないという、その結果相続税額は約7800万まで上がってしまったのだ。苛斂誅求。な、なんという仕打ち、何という理不尽!!。さすがに温厚で柔和でもの静かで内気な性格のK君も怒り狂ってきた。怒りが治まらなくて奇妙な唸り声を発しつつ、ヤケ酒に溺れ、ため息を頻繁に繰り返すK君を一生懸命宥めたのを昨日のことのように私は思い出す。他人事ながら本当に可哀想であったが、残念ながら苛めと暴力の象徴たる国家権力の前には数の子の一粒の存在でしかないK君も私もなす術もなく全く無力だった。さてK君はその後どうしたのだろうか。久しぶりに出会って酔いにまかせて驚喜乱舞の体であったK君の相続税に対する果敢な立ち回りは秘匿しておくには惜しいものがあり、K君の許可を得て、ここに紹介しよう。なおここからはできるだけ現実感のある話にしたいので、あたかも私がK君になり代わったような書き方で話を続けることにする。
「要は相続放棄をするか、控除額を増やせばいいということになったのだ」とK君は得意そうにはなしはじめた。相続放棄は国家権力への白旗だからそれはやめた。それでは控除額を増やそうということになった。G氏の兄弟はたくさんいる、兄弟が死んでいてもその子供たちが相続人として数えられるはずだ。K君は俄然力づいてきた。その先にあるはずの困難はいきあたりばったりで片づけるとして、この強権的な国家権力にひと泡ふかせるには想像だに難しいが挑戦する価値のある面白い構想があった。
まず、G氏夫婦とK君の父親夫婦の養子縁組みを白紙に戻さなければならなかった。
しかしこれについては幸か不幸か相続のことで折り合いが悪くなっていた弟が民事で養子縁組無効の訴えを提出してしまったのである。これはずいぶん昔にK君がごり押しで関係者に署名捺印させていたことが幸いして案外簡単に裁判所に認められたのだ。その結果、相続人は9人に膨れ上がった。相続税控除額は一挙に14000万になった。再掲するが当初目論みの控除額9000万が、あっと驚く6000万への減額になってしまい、目玉が飛び出るほどの相続税が突然出現したために奈落の底で絶体絶命となったが、養子縁組無効確認という乾坤一擲の巻き返しで最終控除額は14000万になった。嬉しかった。国民に対する暴力でしかない国権に一矢報いた気で気分が高揚した。やけっぱちから出た大勝負の結果、税額もなんと約2500万まで下がった。つまり当初の3500万という概算で憂鬱になり、こちらの無知のために増えてしまった7800万で周章狼狽し、大勝負の巻き返しの結果の2500万で一息ついたというわけである。しかし2500万なんて大金が、しかもドブに捨てるに等しいゼニが簡単に家にあるわけがない。そこで税金支払いの為に細々とやっていた農地を売ることになった。この不景気にそんなに簡単に売れるわけがないと思っていた土地は存外簡単に売れた。
最後の仕上げが近づいた。読者はもう気づいておられるだろうが、相続人は9人。しかし道徳的現実的相続人はK君と弟の二人。近隣に嫁いだ妹は非常に物分かりの良い妹である。あとに残った6人との相続放棄の家族会議をどのように行うか・・・、結果だけ述べるが、深謀遠慮に基づく戦略と戦術を用いて比較的スムーズに行った。ただし、この過程で人間なんて性悪なもんだと思った。再び書くが、この国はハイエナだ。ハイエナのほうがまだ可愛い。なんと税金を払うために売って得たゼニに不動産売却税という所得税がかかるのだという。K君は「大蔵(現財務)官僚など官僚という化物は常人ではない。人外と思っていい。自分の処理・処断がどのような迷惑を生じ、時には生活破綻を来すような悲劇となっても、一切関知しようとせず、感情を動かすことをしない。彼らから見れば民間の者は無機物に等しく、おのれらが世を統べるのは至高の行為と、骨の髄までそう思っている。官と民とは生物的に異なると思い、民の求めで官の仕事が曲げられることは、神にもとる行為としか考えない。ゆえに彼らを人と思ってはいけない。彼らは民からみたら化物である」(池宮彰一郎氏著「島津奔る」より引用)と語ったものである。
独裁的で強大な国家権力に対抗するには知恵と知識を集中しなければならない。ここに至るまでに、税理士、会計士、司法書士、弁護士などに多くの金を使った。結局土地を売っただけでは、2500万の税金が払えないのだ。全てかたがつくにはK君と弟は1500 万円を銀行から借りなければならなかった。しかもこの借金については元本はおろか金利さえも償却できないという。これではまるで税金の二重三重盗りではないか。ナメた話だ。結局最後の収支であるが、ここに至るまでに最終決定相続税2500万をふくめて約4000万(の本来は不必要な無駄金)が浪費された。当初はじきだされていた被課税額7800万という国権の非情な暴力から精一杯自分と兄弟とその家族を守るのに、売る必要もない農地を売って補填しつつ1500万の借金をしなければならないという凄惨な現実がここにあった。まさに苛斂誅求という表現しか思いつかない。結局総支出は約半分に圧縮できたものの、してやったりとは決して思えない。しかし無知で無能で強権的な官僚独裁権力には、堂々と立ち向かわなくてはならないとあらためて思った。以上、いわゆる実話相続税対策顛末記はここで終わるが、このあとK君はしみじみと語ったものだ。「少なくとも我々のように細々と生きて、ごまめに等しい平民は、税金を出来るだけ払わない。そしてその為にはありとあらゆる知恵と知識を総動員して方法を謀るということを人生の行動原則にしてもいいのではないかと思う」と。
ついでに一つ、日本は相続税が高いという。しかし私はそうは思わない。金権政治屋や賄賂役人や助成金や補助金を隠して積み上げた財界人の資産(この国では、卑しく残忍で狡猾にやらないとゼニは蓄まらない)については、隠し資産を徹底的に掘り起こし、「政治屋さんの貯金箱」といわれる銀行を粛清し、もっともっと厳しく相続税を取り立てるべきだと思っている。私は昨今の相続税を低くしようとする風潮には大反対なのである。平成13年10月1日 鳥越恵治郎