◎皮疹の診断・皮疹の成り立ち(1). 原発疹:病変として最初に皮膚に生じた皮疹
紅斑・紫斑・白斑・色素斑・丘疹・結節・小水疱及び水疱・膿疱・嚢腫・蕁麻
疹または膨疹(2). 続発疹:原発疹が修飾されて生ずる皮疹
表皮剥離・びらん・潰瘍・膿瘍・亀裂・鱗屑・痂皮・胼胝 (べんち)・瘢痕・
萎縮(3). 特殊型の皮疹:原発疹または続発疹がある特有の像をとったり、そのいくつか
が組み合わさってある一定の症状を呈する時に、その皮疹の状
態を簡単に分かりやすく表現したもの
苔癬・苔癬化・疱疹 (ヘルペス)・天疱瘡・膿痂疹 (とびひ)・膿瘡・深膿痂疹・
にきび・面皰・毛瘡・紅皮症・乳頭腫・かきがら疹・粃糠疹・乾癬・脂漏・
脱毛症・掻痒症・多形皮膚萎縮症
◎薬疹の頻度(1). 光線過敏型 (15.8%)
(2). 播種状紅斑丘発疹型 (15.1%)
(3). 多形紅斑型 (9.9%)
(4). 固定薬疹型 (9.1%)
(5). MCOS/TEN型 (7.0%)
(6). 水疱型 (5.5%)
(7). 苔癬型 (4.1%)
(8). 紅皮症型 (3.9%)
(9). 湿疹型 (2.9%)
(10). 角化水疱色素沈着型 (2.6%)
(11). その他 (24.0%)※MCOS:皮膚粘膜眼症候群
TEN:中毒性表皮壊死剥離症
(1). 光線過敏型 (15.8%):光毒性反応 (有効濃度 + 紫外線) および光アレルギー
反応 (少ない投与量でも発症)
キノロン・ニューキノロン系抗生剤に多い
◎自己免疫性水疱性疾患1). 天疱瘡:全身に多発する難治性のびらん・表皮内水疱を主症状とする
自己免疫性水疱性疾患
※血清中に表皮細胞間物質に対するIgG自己抗体 (天疱瘡抗体) を証明。
自己抗原は重層扁平上皮に特異的に発現する一種のカドヘリン
◇尋常性天疱瘡:粘膜症状あり
◇落葉状天疱瘡:粘膜症状を欠き、経過が比較的良好2). 類天疱瘡:表皮下水疱を認める天疱瘡によく似た疾患
※lamina lucida (表皮基底細胞層とその下の lamina densa の間) に対する
IgG 自己抗体を証明。
◇水疱性類天疱瘡:老人・予後良好・基底膜部に対する IgG 自己抗体 (70%)
◇限局性類天疱瘡:中、高年者の頭顔頚部または下肢・基底膜部に対する IgG 自
己抗体
◇瘢痕性類天疱瘡:眼や口粘膜・瘢痕を残す・抗基底膜部自己抗体は低い
◇妊娠性疱疹:水疱性類天疱瘡と病理学的には区別出来ず。
抗基底膜部自己抗体は10 〜 20%・性ホルモンの影響あり
HG (pemphigoid gestation) 因子は抗基底膜部 IgG 抗体であり
胎児に移行し10% の新生児に皮疹あり3). 後天性表皮水疱症:非家族性慢性後天性水疱症・機械的刺激で水疱・瘢痕拘縮
4). IgA の関与する水疱症
◇疱疹状皮膚炎 (Duhling 疱疹状皮膚炎)
体幹や四肢の激しいかゆみを伴う疱疹状の小水疱・DDS (ジアミノジフェニ
ルスルホン) が有効・ヨードカリ貼付試験陽性
◇IgA 天疱瘡:体幹や四肢の激しいかゆみを伴う疱疹・膿疱・紅斑・びらん、
DDS (ジアミノジフェニルスルホン) が有効・希
◎皮膚疾患のビタミン D3 (1α, 25(OH)2D3) 内服療法◇適応疾患
(1). 加齢に伴うもの:老人性色素斑・老人性白斑・脂漏性角化症・有茎軟腫・
老人性面皰・老人性神経線維腫・老人性脂腺増殖症
ワンアルファ 2μg 〜 1.0μg よりはじめ 5日毎の漸減を行い一か月後に
週一回投与として数年間治療。
(2). 更年期角化症
ワンアルファ 0.25μg を毎日服用、一か月後に効果が現れる。
◎悪性黒色腫早期病変と後天性色素細胞母斑の鑑別※メラノーマの殆どは de novo に (ほくろとは無関係に) 表皮基底層部に存在する
色素細胞の形質転換により melanoma in situ として初発する。
●悪性黒色腫早期病変 ●後天性色素細胞母斑 (ほくろ) 発症時期 多くは成人以後気付かれる 幼小児期から存在 皮疹の性状
最大径色素性の斑ないし僅かに
隆起する局面
おおくは 6mm 以上
しばしば 9mm 以上と大型色素性の斑や局面あるいは
小結節
多くは 7mm 未満
10mm 以上は稀形状
色調左右非対称の不規則形状
外形に不整な凹凸
黒褐色に無秩序な濃淡の差
左右非対称の色素沈着類円形 〜 楕円形、顕著な
不規則形状は認められず
ほぼ一様に黒褐色、但し毛孔部
や皮溝部などが濃くみえたり
辺縁が一様に淡いことはある境界
好発部位部分的に境界が鮮明な部分と
不鮮明な箇所が見いだされる
日本人は爪と足底部ほぼ一様に鮮明ないし不鮮明
であることが多い
◎皮膚科領域で見られる細菌感染症※S.aureus > S.epidermidis (ブ菌が 60%) > Streptococcus (10%)
グラム陰性桿菌 (20%・日和見感染) > Neisseria > Corynebacterium
>その他 (7%)1). 皮膚の構造:角質層・表皮・真皮・皮下組織
附属器:毛嚢・脂腺 ー→ 毛孔、汗管・汗腺 ー→ 汗孔2). 感染経路による分類
1. 毛孔から毛嚢への感染
(1). (多発性) 毛嚢炎:浅在性と深在性、S.aureus・S.epidermidis が原因
尋常性毛瘡:男性の口周囲の硬毛に多発するもの。
ボックハルト膿痂疹 (急性表在性毛嚢炎)
:浅在性の多発、下肢に好発痒みを伴う皮膚炎を掻き毟ってその後には
っしょうした毛嚢炎。
(2). せつ・よう:毛嚢炎が進展したものがせつ (通常の膿瘍・発赤・腫脹・浸
潤を伴った病変) 、せつが多発したものをせつ腫、せつが更に悪化した状
態をようと言う。糖尿病・免疫低下に注意
2. 汗孔から汗管への感染
(1). エクリン汗孔炎:夏場に多汗部の汗孔に一致した赤色丘疹・膿疱
(2). 乳幼児多発性汗腺膿瘍:エクリン汗孔炎に続発、主として頭部・顔面に発
赤を伴う結節が多発。疼痛あり。
「あせものより」という俗称をもつ。
3. 附属器とは無関係な感染
(1). 伝染性膿痂疹 (とびひ):角質層への S.aureus の感染、exfoliative
toxin により浅い水疱が形成される。
※Streptococcus によるものはアトピー性皮膚炎患者に多く、季節に関
係なく小紅斑 → 膿疱 → 黄褐色痂皮を形成。
(2). ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群 (SSSS)
:新生児剥脱性皮膚炎、S.aureus の exfoliative toxin (ET) 産生株が
血中に入り全身の皮膚反応を起こす。
3才以下の伝染性膿痂疹 (水疱性膿痂疹) に続発、発熱・眼脂・鼻汁・
口囲の発赤・擦過部位の強い紅斑で始まる。
(3). 丹毒:発熱・悪寒、好発は下腿と顔面の浮腫性紅斑、膿疱・水疱形成あ
り。Streptococcus を検出 (局所からの検出は困難)
(4). 蜂窩織炎 (蜂巣炎)
:広い部分に発赤・腫脹・硬い浸潤あり。疼痛つよく発熱等全身症状を
伴う。S.aureus・Streptococcus による皮下組織の広範囲の炎症で
浸潤部位は軟化し波動を触知し切開で多量の排膿あり。
(5). 壊死性筋膜炎:限局する発赤・疼痛で始まり、皮下組織・筋膜に達する壊
死に進行。糖尿病・動脈硬化があれば重篤。原因菌不明。
宿主側の因子が関与。
(6). 紅色陰癬:股・会陰・腋下第四趾間等湿潤部位。境界明瞭な粃糠様落屑が
付着痒みや灼熱感を訴えることもある。
コリネバクテリウム感染症。
4. 慢性膿皮症:皮膚感染症は殆ど急性のもの。慢性に経過するものでは、化膿性
汗腺炎・膿瘍性穿掘性頭部毛嚢周囲炎・臀部慢性膿皮症があるが
これらの疾患は感染症というより附属器に起こる慢性炎症であり
感染は一時的に病勢に関与するだけだろう。
5. 二次感染:潰瘍・褥創等への細菌感染。とくにアトピー性皮膚炎部位からは
ほぼ 100% に S.aureus が検出されるという。3). 治療:S.aureus にはセフェム系が、Streptococcus にはペニシリン系が第一
選択。
◎爪の色調の変化(1). 黒乃至褐色:アジソン・ヘモクロマトーシス・ウィルソン・抗腫瘍剤・砒素中毒
(2). 黒乃至緑:爪母の母斑・悪性黒色腫
(3). 黄色:黄色爪症候群
(4). 白色の横帯:低アルブミン・急性砒素中毒・タリウム中毒
(5). 爪床部の蒼白化:低色素性貧血・レイノー
(6). 白色:慢性腎不全・肝硬変
(7). 白濁:爪白癬症
(8). 緑色:緑膿菌感染症
◎全身性多汗症 (エクリン腺の機能亢進)1. 代謝性疾患
甲状腺機能亢進症・糖尿病・低血糖症・下垂体機能亢進症・褐色細胞腫・
カルチノイド症候群・プランマー病・痛風・くる病・チェディアック-東症候群・
フェニールケトン尿症・肥満・ポルフィリン症・閉経期の顔面潮紅など2. コリン作動薬・解熱薬・慢性砒素中毒・片頭痛・自律神経失調症・片麻痺・
錐体外路疾患・視床下部病変
◎突発性悪性腫瘍随伴皮膚病変(eruptive paraneoplastic dermatoses)
皮膚病変 多発性病変 突発性病変 内蔵悪性腫瘍の種類 脂漏性角化症 多発性老人性疣贅 Leser-Trelat徴候 諸臓器の悪性腫瘍 血管腫 老人性血管腫 Crow-Fukase症候群 多発性骨髄腫 脂腺腫 多発性脂腺腫 Muir-Torre症候群 消化器・泌尿生殖器癌 後天性多毛症 内分泌性多毛症 後天性毳毛多毛症 肺癌・多発性骨髄腫 末端炎症性角化症 反応性炎症性角化症 Bazex症候群 上気道癌 ・頚部リンパ節転移癌 黒色表皮腫 仮性ならびに
内分泌性黒色表皮腫悪性黒色表皮腫 胃腺癌 魚鱗癬 先天性魚鱗癖 後天性魚鱗癖 悪性リンパ腫
◎妊娠と皮膚疾患
- 妊娠中にみられる皮膚の変化
・色素沈着:特に乳嘴、乳暈、外陰、肛囲、下腹正中線、肝斑
・多毛:まれ
・妊娠線:特に下腹、乳房
・Vasclar spider:臍より上
・手掌紅斑- 妊娠に密接な関連を有するもの
・妊娠性痒疹*、妊娠性疱疹、PUPPP(purritic urticarial papules
and plaques of pregnancy)、疱疹状膿痂疹- 妊娠に特に関係ないが合併しやすいもの
・蕁麻疹、中毒疹、皮膚筋炎、サルコイドーシス、全身性硬皮症など
多種類- 妊娠によって好転するもの
・乾癬、Forx-Fordyce病など少数- 妊娠によって増悪するもの
・多形紅斑、Recklinghausen病、尖圭コンジローム、SLE、天疱瘡など
*妊娠性痒疹 prur1909eStatIonは妊娠2、3月にはじまるものが多く
妊娠中持続する。発赤を伴った蕁麻疹様皮疹として発生し痒みが強い。
体幹から四肢の伸側に生ずる。胃腸・肝障害を伴うことがあり、治療とし
て肝庇護食・ビタミンB6内服。コーチゾン軟膏を塗布するが痒みは止め
難い。分娩すると突然これは消失する。
◎肝斑について(NIS、No4150(2003/11/8)、p34)
肝斑は頬部、前額部、側頭部に両側対称性に生じる境界明瞭な茶褐色斑である。
主として女性にみられ、特に妊娠中や出産後、閉経期の更年期障害の時期に生じる
事が多く、多腺性のゴナドトロピンの変調が基盤にあると考えられている。肝斑の
語源は"Leber-fleck"の直訳と考えられている。肝臓の色に似ているからこう呼ば
れたらしい。組織学的には表皮基底層~有棘細胞層のメラニン沈着で真皮の異常は
認めない。
治療は従来からのVit-C、Vit-E、チラネキサム酸の長期内服療法があり、メラノ
サイトにおいてチロヂナーゼ活性を阻害して新たなメラニン産生を抑制するもので
あるが有効率は20%程度。最近はオ_ルトランスレチノイン酸とハイドロキノン併用
で治療が試みられている。レーザー治療は却って色素沈着増強を招くので肝斑の治
療には向かない。
◎膚真菌症治療のニューコンセプト
1.不正確な診断と中途半端な治療はいけない。角質層のターンオーバーは約28日
なので、外用薬は約一か月投与し続けなければならない。また周囲にも菌は潜
んでおり広範囲に塗布する必要あり。
2.足白癬症を10年以上罹患していると爪白癬症を併発する可能性が多くなる。
3.グリセオフルビンの副作用は頭痛、悪心、嘔吐、食欲不振、心窩部痛、下痢
口渇が主たるものであるが、医師サイドに副作用が強いという思い込みがあり
すぎる。実際は中止に至る事は少ない。
4.最近の新らしい経口抗真菌剤
a.イトラコナゾール:白癬菌、カンジダ、アスペルギルス、マラセチア等
6か月投与で90%以上の有効性。副作用は心窩部不快感、便秘、腹痛。
薬物相互作用が多いので注意。
b.テルビナフィン:白癬菌、カンジダ
爪白癬に対して80%以上の効果。副作用は心窩部不快感、便秘、腹痛。
海外で重篤な肝障害、血液障害の報告あり
c.イトラコナゾールのパルス療法
爪白癬に対して一か月に一週間のサイクルで間歇的に投与。200mg/日×1W
を3サイクルで有用とされる。足白癬ではびらんや亀裂があれば適用となり
1サイクルのパルスで4Wの外用治療と同等の効果
◎皮膚潰瘍の原因(NEJM 2001;345:1120)
1.Drug reaction
・Warfarin sodium
皮膚潰瘍(壊死)の93%は治療開始後3〜6日の間に発症。中止すると退縮
・Amiodaron
血管炎、polyserositisなども起こす。光線過敏症、顔面の青灰の色素沈着
も起こす。
2.Circulatory disorders
・Venous stasis
・Peripheral vascular disease(trunk、breast、legには潰瘍はできない)
・Necrotizing vasculitis:膠原病、高r-gl性紫斑、クリオグロブリン血症
炎症性腸疾患、悪性腫瘍、インシュリン治療、感染症などに伴う。
(痒み、痛み、発熱、関節痛、筋肉痛、頭痛、倦怠感などを伴う)
bullous lupusも考慮。
・Calcific uremic arteriopathy(calciphylaxis)
尿毒症で透析や腎移植後の患者に合併。原発性副甲状腺機能亢進症、アル
コール性肝硬変、転移性乳癌との関連あり。
small-vesselの石灰化と皮膚壊死が特徴。致死性で、潰瘍への二次感染
で死亡。石灰化した血管の血流不全と血栓による皮下脂肪組織における
急性梗塞。血中Ca、P、副甲状腺ホルモン増加はcalciphylaxisの危険因子。
ひどい肥満、体重減少、血中Al低下、ワーファリン治療、女性であること
も危険因子と考えられる。病理的原因は不明、検査データに特異的なものは
ない。
3.Miscellaneous cause
・Diabetic neuropathy
・Septic embolism
・Trauma
・Burns
・Radiation therapy
・Spider bite(brown recluse spider)
・Malignant tumor(lymphoma、melanoma、Kaposi's sarcoma、breast cancer)
・Pyoderma gangrenosum(Crohn's disease、ulcerative colitis、RA etc)
◎皮膚または軟部組織の変化と末梢血好酸球増加を認める寄生虫感染症
(NEJM 2002;346:117)
1. Nematode infections
・Ascariasis
・Dracunculiasis
・Filarial infections(loiasis、dirofilariasis、lymphatic filariasis
onchocerciasis)
・Gnathostomlasis
・Hookworm infection(cutaneous larva migrans)
・Strongyloidiasis
・Toxocariasis(visceral larva migrans)
・Trichinosis
2. Trematode infections
・Fascioliasis
・Paragonimiasis
・Schistosomiasis
3. Cestode infections
・Coenurosis
・Cysticercosis
・Echinococcosis
・Sparganosis
※ In hypereosinophilia,the eosinophil count exceeds 3000 per cubic millimeter.
◎疥癬対策(日医雑誌2001;126:1003)
原因:ヒゼンダニ(体長:0.4)が皮膚角化層に寄生する皮膚感染症で性感染症
の一つで普通の疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の二型あり、この
二つははっきり区別しなければならない。
1. 症状
1)普通の疥癬
1か月の潜伏期間ののち激しい痒みで発症。腹部、胸部、腋窩、大腿内側
に散発する赤い小さなfi疹を認める。陰部や腋窩に好発する赤褐色で小豆大
の結節は必発ではない。さらに手掌や指の間、指の側面などに発症する細く
わずかに盛り上がった数mmの線状皮疹を認め、これは疥癬トンネルと呼ばれ
る。ここでヒゼンダニの雌が角質層内を掘り進みながら卵を生みつけている。
ここから虫体、卵などを検出して診断を確定する。
2)角化型疥癬(ノルウェー疥癬)
老衰、重症感染症、悪性腫瘍などの基礎疾患、臓器移植や膠原病でステロ
イドや免疫抑制剤投与中など、免疫力低下状態に発症しやすい。外用ステロ
イド塗布部位にも発症しやすい。ノルウェー疥癬では100〜200万匹と、普通の
型(1000匹程度)よりも桁違いに多く、感染力ははなはだ強力。
症状の特徴は角化と紅皮症様病変で、手や体の骨ばったところ、摩擦を受
け易い部位にきわめて厚い鱗屑が蛎殻のように付く。好発部位は手指のほか、
肘頭、膝蓋、臀部など体幹・四肢の関節背部や骨の突出部位である。また普
通の疥癬では寄生しない頭頚部にも寄生する。もちろん掻痒を伴うことが多
いが、全くないこともある。ノルウェー疥癬の疑いさえもてば、角化病巣や
シーツに散った落屑からもダニが容易に検出される。
2. 感染経路
1)普通の疥癬:直接接触(雑魚寝など)、寝具を介する感染
2)角化型疥癬(ノルウェー疥癬):虫体、卵をもつ落屑が皮膚や衣服につく。
老人病院や老人施設内の集団発生の殆どはこちら。
3. 治療
1)硫黄剤:5〜10%の沈降硫黄軟膏、チアントール軟膏などの有機硫黄剤がある。
2)安息香酸ベンジル:12.5〜35%のローションあるいはアルコール溶液として用い
る。
3)クロタミトン:10%軟膏(オイラックス)。副腎皮質ホルモン剤の入っている
オイラックスHやSなどは使ってはいけない。
4)γBHC:1%含有白色ワセリン軟膏として使用。普通の疥癬の場合には頚部より
下の全身に塗布し6時間後に入浴し洗い落とす。卵に対する効果が弱いことを
考慮に入れて、1週間後に再度、同じ処置を繰り返す。(日本では発売禁止)
4. 治療上の注意
1)全身塗布
ヒゼンダニは雌以外の雄や幼虫や若虫がどこにいるか特定できないので、頚
部から下の全身に薬剤を塗布する。ノルウェー疥癬は頭頚部も含め全身に塗布
する。治療に抵抗した場合のほとんどが、全身塗布を十分に行わないためで、
痒い部分、皮疹部のみに塗布したり、麻痺している手や指には塗布を怠ったた
めである.
2)相互感染を防ぐ
無症状の潜伏期間を考慮に入れ、感染機会のあった者はすべて予防的に治療
を行う。ノルウェー疥癬患者との同室患者、受け持ち看護婦など、接触のあっ
た者が対象となる。
3)治癒判定を正確に
不必要に長時間、薬剤の塗布を続けない。疥癬の薬はあくまでも殺虫剤で痒
み止めではない。ヒゼンダニは死滅しても全身の痒みや小結節が半年から1年の
長期間にわたり残存することがある。皮疹から生きたヒゼンダニが検出されな
くなった時点で殺ダニ剤の塗布はやめる。硫黄剤の使い過ぎで接触皮膚炎を起
こし、そのため疥癬を未治癒とし、なお使い続けることが多いので十分な注意
が必要である。逆に、ノルウェー疥癬では爪にヒゼンダニが寄生し、治療に抵
抗するので見落としてはいけない・いずれの場合にもダニの死滅を確認するこ
とが肝要である.
4)副腎皮質ホルモン外用剤を使わない
ヒゼンダニが死滅するまでは同外用剤はもちろん、同剤含有の内服薬も不必
要に使わない。
5. γBHCの使用上の注意
この薬剤は国内では販売が禁止されているが、ノルウェー疥癬などの治療で
は使わざるをえない場合も多い。しかし諸外国では、過剰投与による幼小児の
死亡事故、老齢者の痙攣発作などの報告もある。他剤に比べ効果は高いが毒性
も強いので、過剰投与にならないように、次の注意を守らなければならない。
1)経皮吸収量を減らすため入浴後、体が冷えてから塗布する.
2)6時間後に洗い落とす.
3)幼小児、妊婦には使わない.
C 4)湿疹化したり、二次感染を起こしていたり、びらん面の多い皮膚には使わない。
5)1か月に二度を限度とする。二度目との間に1週間おく。二度目もヒゼンダニの
生存を確認したうえで使う。
6)濃度は1%を超さず、できる限り少量を用いる。
F 7)口から入らないように厳重に注意する。アトピー性皮膚炎や、乾癖、魚鱗癖の
ように皮膚のバリアー機能に障害がある場合には使わない。
なお本剤は前述のごとく国内での販売は禁止されており、医師の費任において
のみ使用が可能であること、毒性が強いことなどを十分留意のうえ、過量投与を
慎むべきである。
6. 老人病院、老人施設内での疥癬の集団発生時の対策
1)感染源を見つけて隔離、感染範囲を推定し治療を開始する
老人病院、老人施設での疥癬の集団発生は、ほとんどがノルウェー疥癬患者
を感染源としている。対策の第一は感染源のノルウェー疥癬患者を見つけて隔
離し、治療を開始することである。さらに感染が及んだ範囲を推定し、感染
の可能性のある者は症状の有無にかかわらず一斉に治療する。感染源患者と同
室の患者、かつて同室であった患者も対象となる。長期間、発症が気づかれな
かった場合には感染は広範囲に及び、看護婦、その家族、理学療法士から他病
棟の患者、あるいは看護婦から他の患者へと感染が広がっていることが多い。
長期にわたり集団発生が治まらない施設の多くは、1か月の潜伏期間にある
無症状の感染者を放置することから再燃している。これを防ぐには感染機会が
あった職員や患者はすべて、症状の有無によらず予防的治療を行うことが望ま
れる。
なお、普通の疥癬でも病室・居室が畳部屋で雑魚寝の場合、また洋室でも、
ベッド間が極端に狭く布団が重なり合う場合、または痴呆などで長期間、他者
と肌の接触がある場合などでは集団発生を起こすことがあるが、それほど広範
囲に広がらない。
なお、隔離を要するのはノルウェー疥癬患者のみで、普通の疥癬はこの必要
はない。
2)ノルウェー疥癬患者からの感染予防を行う
ノルウェー疥癬患者の落屑には多数のヒゼンダニが生存しているために、普
通の疥癬に比べ感染カが強い。したがって治療以外に感染予防処置が必要とな
る。
a.熱処理を行う
ヒゼンダニは熱に弱く50℃、10分の加熱で死滅する。したがって寝間着、
シーツなどは熱湯に漬けて熱処理する。洗えない布団などは熱乾燥車など
で熱処理する。シーツなどの交換に際しては皮膚からの落屑が部屋に飛び
散らないように注意し、ビニールの袋などに入れて密閉し、そのまま熱処
理してもよい。掃除機で掃除をするだけでも飛び散っているものは処理で
きる。ヒゼンダニは高湿度、低温(気温12℃)の場合、2週間生存したとい
う記録がある。理論上ではノルウェー疥癬患者の使用していた部屋、ベッ
ド、寝具の類は2週間の接触を断ち、衣類はビニール袋に詰めて口を閉じ2
週間、そのまま放置できるならば、それがいちばん安価で確実な処置であ
る。しかし実際上、それは不可能であろう。
b.殺虫剤を使う
熱処理できないものには殺虫剤を用いる。ノルウェー疥癬患者の居室、
隔離室の壁、床、カーテンなどに殺虫剤を散布あるいは塗布する。殺虫剤
には多種あるが、ピレスロイド系の殺虫剤が適当である。同剤は即効性を
もつ一方、人に対する毒性は弱く、また、この系統のペルメトリンが外国
では疥癬の治療に用いられ、ヒゼンダニに対する効果も証明されている。
ペルメトリンにはエアゾール、燻煙剤、液・油剤、乳剤、瀞剤などがあ
るが、エアゾールが簡便である。また乳剤を噴霧するのも価格が安い利点
がある。5%乳液を10〜20倍に薄めて1平方メートル当たり50ml程度を噴霧
するのが目安とされる。
ノルウェー疥癬患者のほとんどがベッドから動けないほどの重症なので、
その居室だけの処置ですむが、なかにはかなり広範囲に病院内を移動し感
染源となった例もある。そのような場合にはその移動場所にも同様の処置
が必要となる。残効性があるので−度の処置でよい。
c.その他の処置
隔離室内での作業は予防着と手袋を着用し、患者接触後はビニール袋に
入れ密閉し熱処理する。ノルウェー疥癬患者を他の部屋に移す場合には、
使用したベッドや寝具は2週間使わないか、あるいは必ず愚者をベッド・
寝具ごと隔離室に移動すること。決して、すぐ次の患者を、そこに寝かせ
てはいけない。感染経路の項で述べたようにベッドを介して次の患者に感
染する。これは普通の疥癬患者にも適応される。
なお患者の隔離、熱処理、殺虫剤噴霧などの処置は、あくまでもノル
ウェー疥癬患者のみに対するもので、普通の疥癬患者には不要である。
ただし、隔離前のノルウェー疥癬患者と同室だった患者、特に隣のベッ
ドの患者の寝具はノルウェー疥癬患者と同様の処置(熱処理など)が望ま
しい。在宅介護でも基本的には同じで、ノルウェー疥癬と普通の疥癬を混
同しないことが肝腎である。
7. 将来の疥癬治療
1)ペルメトリン
諸外国で、毒性の強いγBHCに代わる薬剤として使用されるようになった5%
ペルメトリン軟膏は、ピレスロイド系の殺虫剤で高い殺虫効果をもつわりに人
体毒性は低く、比較的使いやすい薬剤である。薬監証明を取り個人輸入する方
法もある。しかし、接触皮膚炎を起こしやすいので頻回の塗布は避けるべきで
ある。
2)経口投与薬イベルメクチン
本剤は中南米を中心に疥癬に使用され効果をあげている。本剤は放線菌の産
生するabemectin類の誘導体の複合物で、オンコセルカ症などの糸状虫症、ペッ
トや家畜の疥癬や寄生虫疾患などの治療に用いられている。1週間間隔の2回経
口投与で効果がある。国内では糞線虫の治療薬として数年のうちには発売され
る予定になっている。
◎皮膚に生じる血管炎の罹患血管の太さによる分類(NIS、No.4061(H14/2/23、P33)
1.細小血管(真皮に存在する血管主体)
1)免疫複合体関与:皮膚アレルギー性血管炎、H-S紫斑、蕁麻疹様血管炎
クリオグロブリン血症性紫斑(ANCA陰性)、膠原病関連血管炎(半月体
形成性腎炎(MPO-ANCA陽性)・肺毛細血管炎(MPO-ANCA陽性))
持久性隆起性紅斑
2)ANCA関連疾患:Wegener肉芽腫(PR3-ANCA陽性)、顕微鏡的多発血管炎
(MPO-ANCA陽性)、AGA(Churg-Strauss)
3)その他:Behcet、炎症性腸疾患(Crohn、UC)
2.中型血管(皮下脂肪織に存在する血管より太い血管主体)
古典的PN(ANCA陰性)、皮膚結節性多発動脈炎、リウマチ性血管炎、
川崎病(ANCA陰性)、バージャー病(ANCA陰性)
◎von Recklinghausen 母斑症(Recklinghausen症候群、神経線維腫症)病変
1. 皮膚病変
・神経線維腫(cutaneous neurofibroma,pachydermatocele)
・神経鞘腫(neurilemmoma)
・大レックリングハウゼン斑(cafe au lait斑)
・小レックリングハウゼン斑
・腋窩部雀卵斑様色素斑
・真皮メラノサイトの増殖を伴った神経線維腫(pigmented neurofibroma)
・有毛性褐青色斑ないし腫瘤貧血母斑
・若年性黄色肉芽腫(juvenile xanthogranuloma)
2. 中枢神経病変
・神経線維腫(脳および脊髄の中にも血管に沿ってシュワン細胞がある)
・脳腫瘍(meningioma,gliomaなど)
・精神症状、知能低下
3. 眼病変
・角膜、虹彩、眼底の病変
・視神経膠腫
・球後神経線維腫
4. 骨病変
・神経線維腫
・脊柱側攣症その他変形および奇形
・VD抵抗性骨軟化症
5. 内臓その他
・神経線維腫
・Pheochromocytoma
・ganglioneurinomaおよびneuroblastoma
・腎動脈狭窄
・動脈瘤
・腎嚢腫
・肺嚢腫
6. 悪性変化(neurofibrosarcoma)
7. その他の悪性腫瘍
・クロム親和性細胞腫
・悪性黒色腫
・神経芽細胞腫
・骨髄腫
◎エクリン系腫瘍の分類(NIS、 No.4071(H14/5/4)、P33)
1. 良性腫瘍
1) エクリン汗孔腫
a. 単純性汗腺林細胞腫
b. 真皮汗管腫瘍
c. 汗孔汗腺腫
2) エクリン汗管線雑腺腫
3) 汗管腫
4) エクリン乳頭状汗管嚢胞状腺腫
5) エクリン汗嚢腫
6) 乳頭状エクリン腺腫
7) 軟骨様汗管腫
8) 澄明細胞汗腺腫
9) エクリンらせん腫
10) 侵襲性指趾部乳頭状腺腫
2. 悪性腫瘍
1) エクリン汗孔癌
2) 悪性澄明細胞汗腺腫
3) 悪性軟骨様汗管腫
4) 悪性エクリンらせん腫
5) 微小嚢胞性付属器癌
6) 汗管様エクリン癌
7) 皮膚腺様嚢胞癌
8) 皮膚粘液癌
9) 侵襲性指趾部乳頭状腺癌
10) 古典型エクリン腺癌
◎薬疹の発疹型と主な特徴(日本医事新報 Junior版、2002、No.413、P21)
1. 紅斑丘疹型:最も高頻度、体幹四肢に左右対称性、発熱(+-)、全身倦怠感(+-)
因薬剤は多彩。(IMN+ペニシリンで効率に発症)
2. 多型紅斑型:中心部が虹彩状の環状紅斑。抗生剤、サルファ剤、精神神経薬
による事が多い。重傷化すると口腔・鼻粘膜・眼瞼結膜に水疱形成し、
皮膚粘膜眼症候群に移行。
3. 紅皮症型:紅斑丘疹型や湿疹型薬疹が不適切な治療などにより汎発化して、
全身の皮膚がびまん性に潮紅し落屑を生じる。
4. 湿疹型:接触感作された薬剤が全身に投与された場合に生じる。皮疹は痒み
の強い小丘疹、縻爛、鱗屑などからなる。抗生剤、抗真菌剤に多い。
5. 蕁麻疹型:IgE抗体によるI型アレルギー反応による。ペニシリン、アスピリ
ンに注意。アナフィラキシーに移行する場合あり。
6. 扁平苔癬型:紫紅色の扁平隆起性局面が広範に生じる。口腔内では白色レー
ス様線状の粘膜疹をみる。細胞障害性T細胞の関与を想定。降圧剤、利尿
剤、脳代謝改善剤に多い。
7. 固定疹型:特定の薬剤を摂取するたびに同一部位に皮疹を繰り返す。手足、
外陰部、肛門周囲、口腔粘膜に好発。薬剤投与後、数時間以内に境界
明瞭な類円形の浮腫性紅斑が生じ、炎症消退後は色素沈着を残す。
テトラサイクリン系抗生剤、ピリン系薬剤。
8. 紫斑型:下肢を中心に点状紫斑が多発し、丘疹や紅斑が混在。III型アレルギ
ーを介するアナフィラキシー紫斑型が想定。抗生剤など。
9. 光線過敏型:薬剤内服時に露光部に限局して紅斑を生じる。サイアザイド、
ニューキノロンが多い。
10. 色素沈着型:薬剤の沈着やメラニンによる色素沈着。ミノサイクリンに多い。
11. ざ瘡型:毛孔一致性の丘疹を生じる型。面皰を形成しない点が通常のざ瘡と
異なる。ステロイドが多い。
12. 乾癬型:厚い白色の鱗屑を付着する角化性紅斑を生じる。β-ブロッカー、
リチウム製剤、インターフェロンなど。
13. 紅斑性狼瘡型:発熱、関節痛、抗核抗体陽性を示しSLE様皮疹を示す型。
ヒドララジン、プロカインアミドなど。
14. 天疱瘡型:天疱瘡様紅斑ではじまり水疱形成をともなう。カプトリルやD-ペ
ニシラミン。
15. 中毒性表皮壊死融解型:薬剤摂取後急速に全身皮膚に紅斑が生じ、熱傷様の
皮膚剥離と水疱形成をきたす重傷型。発熱、関節痛、倦怠感などの全身
症状を伴う。発赤部位を軽く擦ると容易に水疱を形成しニコルスキー
現象陽性。抗生剤、サルファ剤、抗炎症剤などが多い。
16. その他:テガフール(掌蹠、爪周囲、口腔粘膜などに角化性紅斑や縻爛、褐
色色素沈着)、過敏症候群(薬剤摂取により発熱、リンパ節腫大、肝腫
大、発疹、咽頭痛など全身症状を起こす。内服開始後数か月経って遅発
性に発症。ヒトヘルペスウイルス6を再活性化する)
◎皮膚固有疾患としての蕁麻疹の種類
1. 特発性蕁麻疹:急性事麻疹、慢性蕁麻疹
2. 物理性蕁麻疹:機械性蕁麻疹、寒冷蕁麻疹、温熱蕁麻疹、日光蕁麻疹
圧蕁麻疹、振動蕁麻疹
3. コリン性蕁麻疹
4. 運動誘発性蕁麻疹(食物依存性、食物非依存性〉
5. 外来抗原によるアレルギー性蕁麻疹:口腔アレルギー症候群(OAS)、ラテックス
アレルギー、薬剤性、その他
6. 非I型機序によるその他の薬剤性および食物性蕁麻疹<イントレランス>
(アスピリン、色素、造影剤、など)
7. 血管性浮腫
8. その他の特殊型:蕁麻疹様血管炎、蕁麻疹様紅斑、他
◎蕁麻疹の原因、誘因
1. 内因性のヒスタミン遊離物質
1)抗IgE自己抗体、抗FcεR1自己抗体
2)免疫複合体、凝集免疫グロブリン(寒冷凝集素)
3)C3a、C5a
4)キニン
5)ATP、adenosine
6)サイトカイン(マスト細胞の遊走ないしヒスタミン遊離増強作用)
7)神経ペプチド
8)内因性モルヒネ
9)pH、浸透圧
10)アセチルコリン(間接的効果)
11)その他の血清因子
12)その他
2. 外来性のマスト細胞活性化物質
1)抗原、疑似抗原(光アレルゲンなど)
2)−部の毒素、薬剤(造影剤、麻酔薬、麻薬、消炎鎮痛薬)
3)その他
3. 全身的な因子(マスト細胞に対する直接的な作用機序は不明)
1)疲労、ストレス、月経など
2)日内変動
3)物理的刺激(機械的刺激、寒冷、温熱、光線、圧迫、振動、浸透圧)
4)薬剤
5)運動
6)感染症(細菌:ヘリコパクター・ピロリ他、ウイルス:HCV他、真菌、
その他)
7)高免疫グロブリン血症
8)悪性腫瘍(リンパ増殖性腫瘍、その他)
9)その他の内臓疾患
◎小児の大水疱性表皮剥離性紅皮症(bullous exfoliative erythroderma)の鑑別診断(NEJM 2005;353:2060)
・Bullous erythema multibrme
・Stevens-Johnson syndrome or toxic epidermal necrolysis
・staphylococcal scaled skin syndrome (Staphylococcus aureus exotoxin,
phage group II, type 71)
・Infection with varicella-zoster virus
・Generalized contact dermatitis
・Scarlet fever (due to group A beta-hemolytic streptococcal exotoxin)
・Toxic shock syndrome
・Bullous congenital ichthyosiform erythroderma (epidermolytic
hyperkeratosis)
・primary Immunologically mediated bullous diseases
(bullous pemphigoid, linear lgA disease of childhood)
・Bullous lupus erythematosus
・Bullous mastocytosis
◎基底細胞癌発生の危険因子(NEJM 2005;353:2263)
1. Physical characteristics
・Blond or red hair
・Blue or green eyes
・Light skin color
2. Exposure
・Arsenic
・Coal tar
・Ionizing radiation
・Smoking
・Tanning-bed use
・Ultraviolet light
3. Genodermatoses
・Albinism
・Xeroderma pigmentosum
・Rombo syndrome (autosomal dominant, basal-cell carcinoma, atrophoderma
vermicculata, milia, hypotrichosis, trichoepithelioma, and
peripheral vasodilation)
・Bazex-Dupre-Christol syndrome (Bazex's syndrome)
X-linked dominant, basal-cell carcinoma, follicular atrophoderma,
hypotrichosis, and localized anhidrosis
・Nevoid basal-cell carcinoma syndrome (Gorlin's syndrome)
autosomal dominant, basal-cell carcinoma, palmoplantar pits,
odontogenic keratocysts, bifid ribs, frontal bossing, and central
nervous system defects
4. Immunosupression
・Recipients of solid-organ transplants
◎円形脱毛症の治療と予後(NIS 2006;No.4276(H18/4/8):94)
円形脱毛症は皮膚科新患の2〜5%程度で比較的頻度の高い皮膚疾患であるが、そ
の原因は未だ明らかではなく、遺伝的素因、免疫学的異常など多因子性の疾患と
考えられている。そのため治療は現在においても根本的なものとはいえず、施設
ごとの治療法により対応している。また、その治療に対する反応も個体差がある
ので、治療に関するエビデンスが少なく、円形脱毛症の治療と予後に関する質問
に対する確定的な答えを出すことは困難であるが、治療効果などの報告を踏まえ
て本症の予後を考えてみたい。
円形脱毛症にはいくつかの臨床型があり、一般的には単発型、多発型、全頭型、
汎発型などに分けられ、頭髪の生え際が帯状に脱毛するopiasis型を加えることも
あり、さらにアトビー性皮膚炎を背景にした脱毛症を区別する立場もある。単発
型と多発型は頻度の最も多いもので、通常型と呼ばれている。円形脱毛症の経過
はこれらの臨床型によって異なり、一律に論じることはできない。
通常型はほとんゼが1年以内に治癒するもので、自然治癒もありうるし、比較的
良好な経過をとる。しかし、通常型であっても脱毛斑が出没を繰り返すものや、
次第に拡大していくものなどは治療に抵抗する場合があり、その理由は明らかで
はなく、頻度も一定しない。またopiasis型は限局性の脱毛斑をみるものではある
が、一般に難治性である。さらに全頭型や汎発型では治療に難渋し、数年以上の
経過をたどることも少なくない(脱毛症全体の数%程度)。その中で、発毛がまっ
たくみられない例も少数例含まれる。
このような難治例では、病変部が広範囲であれば、治療しない場合と治療した
場合の経過を比較することは外用療法では可能であり、治療した場合にどの程度
の有効率があるかについては多くの報告がある。内服療法などの全身的な治療の
場合、治療の有無で経過をみることは比較する対象が異なるので判定は困難である。
円形脱毛症の主な治療には局所外用療法(塩化カルプロニウム、ステロイド剤
外用など)、局所免疫療法(squaric acid dibutylester;SADBEなど)、内服療法
(ステロイド剤、漢方薬、免疫抑制剤など)、理学療法(ドライアイス庄抵法、
液体窒素療法、PUVA療法、直線偏光近赤外線照射療法など)など多種多様な治療法
があり、一つの治療法にて効果が得られない時には別の方法に変更するなど、これ
らの治療法を適宜選択することが行われている。
ステロイド剤内服は90%に有効とされ、しばしば使用されているが、中止後の再
発例があり、また、長期にわたるために副作用に注意しなければならない。シクロ
スポリン内服は50%に有効であるが、副作用が必発であり、慎重に症例を選んで使
用すべきである。SADBEやdiphenylcyclopropenone(DPCP)などの局所免疫療法で
は50〜85%の改善率がみられ、難治例にしばしば応用されている。PUVA療法では30
〜50%の寛解率を示し、症例によっては有効な治療法である。直線偏光近赤外線照
射療法では単発型では86.4%が治癒、多発型では非照射部と比較して照射部のほう
で発毛が早かった症例が55.6%で、平均1.4か月早く再生毛がみられたとの報告がある。
このように、難治例や経過の長い症例に対しては、少しでも早く発毛を促すよう
な何らかの治療が行われるが、中には治療にまったく反応しないものもあり、社会
心理学的に対応が難しくなることがある。
(斉藤隆三:東邦大学医療センター 皮膚科客員教授)
◎皮膚結節と皮下結節の鑑別診断(NEJM 2006;354:2700)
1. Single, nonplgmented, nontender, firm nodules
1) Plexiform fibrohistiocytic tumor
2) Synovial sarcoma
3) Dermatofibrosarcoma protuberans
4) Primary cutaneous meningioma
5) Plexiform fibrohistiocytic tumor
6) Trichoblastoma
7) Dermatofibroma (may be pigmented)
8) Amelanotic melanoma
9) Pilomatrixoma (may be multiple and pigmented)
2. Single, nonpigmented, tender, firm nodules
1) Benign epidermal, dermal, and subcutaneous neoplasms
Primary cutaneous Ewing's sarcoma
Peripheral rhabdomyosarcoma
2) painful benign skin tumors
Angioleiomyoma
Angiolipoma
Spiradenoma
Glomus tumor
Leiomyoma
3. Multiple, usually erythematous or pigmented, tender, firm nodules
1) infectious causes
Staphylococcus aureus
Candida
Sporothrix schenkii
Leishmania
Nocardla
Mycobacterium leprae
Secondary syphilis
Bacillary angiomatosis (due to infection with bartonella or the
human immunodeficiency virus)
2) Rheumatic fever (Aschoff's nodules)
3) Farber's lipogranulomatosis
4) Sweet's syndrome
5) Panniculitis
・Lobular
Weber-Christian panniculitis
Lupus-associated panniculitis
・Septal (erythema nodosum)
Systemic inflammatory
Inflmmatory bowel disease
Juvenile chronic arthritis, other connective-tissue disease
Idiopathic
Infectious causes
M. tuberculosis, M. leprae
β-hemolytic streptococci
Salmonella, yersinia
Coccidioides immitis, histoplasma
Vasculitis
Cutaneous polyarteritis nodosa
Nodular vasculitis (ANCA-associated,
tuberculosis-associated)
4. Multiple, usually erythematous or pigmented, nontender nodules
1) Metastatic cutaneous neuroblastoma
2) Mastocytoma
3) Urticaria pigmentosa
4) Kaposi's sarcoma
5) Juvenile xanthogranuloma
6) Spitz nevus (juvenile melanoma)
7) Deep melanoma (congenital nevus)
8) Borrelial pseudolymphoma (often singular lesions, usually fouund
in Europe)
9) Hemangiomas or phakomatoses
10) Cutaneous T-cell lymphoma (stage T3, late disease with pigmented
nodules)
5. Multilple, nonpigmented, nontender, and not firm nodules
1) Plexiform neurofibroma (von Recklinghausen's disease)
2) Multicentric reticulohistiocytosis
6. Nontender, multiple, and firm nodules
1) Scleroderma or dermatomyositis-associated calcinosis
2) Nodulosis, arthropathy and osteolysis syndrome
3) Angiofibromas of tuberous sclerosis
4) Nodular fasciitis
5) Juvenile lipofibromatosis
6) Infantile myofibromatosis
7) Cutaneous sarcoid
8) Subcutaneous granuloma annulare
7. Injection site nodulosis
1) Drug-induced (methotrexate) nodulosis
2) Postvaccination lymphocytic hyperplasia
3) Calcinosis cutis and subcutis (injections of calcium-containing
low-molecular-weight heparin)
◎光線過敏症の原因別分類(日内雑誌 2007;96:1006)
(*印は光アレルギー機序で起こる疾患)
1. 外因性物質によるもの
光接触皮膚炎*、薬剤性光線過敏症*
2. 内因性物質によるもの
骨髄性フロトポルフイリン症、晩発性皮膚ポルフイリン症、ペラグラ
Hartnup病
3. DNA修復機構の異常
色素性乾皮症、Cockayne症候群など
4. EBウイルス関連(T/NK活性化)
種痘様水癌症(種痘様水疱症様皮疹)
5. I型アレルギーまたはヒスタミン誘発性
日光蕁麻疹*
6. メラニン色素減少による閥値低下
白皮症、フエニルケトン尿症
7. 自己免疫性
慢性光線性皮膚炎*(HIV陽性者、ATL患者)
8. 日光により増悪ないし誘発される疾患
エリテマトーデス
9. その他
多形日光疹(小丘疹性日光疹)
◎かゆみのまとめ(内科2007増大号、Vol.99、No.6、p.1166)
かゆみとは、皮膚、粘膜、上気道、結膜に生じる不快感を伴う特有な感覚で、
かゆみの有無やその程度が病気の診断の決め手となることもあり、臨床的に見
逃せない症状の一つである。湿疹・皮膚炎・蕁麻疹・痒疹などのかゆみをきた
す皮疹が存在しない場合を皮膚掻痒症といい、外陰部や肛門周囲などのように
限局した部位にかゆみの生じる限局性掻痒症と、全身にかゆみが生じる汎発性
皮膚掻痒症に分けられる。
汎発性皮膚掻痒症では10〜50%に何らかの基礎疾患がみられるとされ、基礎
疾患としては腎疾患(慢性腎不全、血液透析患者)、代謝内分泌疾患(甲状腺
機能障害)、血液疾患(悪性リンパ腫、赤血球増多症)、内臓悪性腫瘍などが
ある。とくに胆汁うっ滞性肝疾患では皮膚掻痒症を合併することが知られてお
り、約20〜25%の患者に認められるとされている。
胆汁うっ滞によって皮膚掻痒症が生じる機序は十分には解明されておらず、
その原因として体内に蓄積される胆汁酸そのものがかゆみ物質ではないかと推
測されていたものの、胆汁うっ滞患者における血清および皮膚組織中の胆汁酸
濃度とかゆみは相関しないという報告もあり、かゆみの原因として最近は、胆
汁酸よりも内因性オピオイドが注目されている。
内因性オピオイドペプチドが関与する中枢性かゆみ機序によるためか、胆汁
うっ滞性肝疾患に伴うかゆみは抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬が奏効しない
難治性のかゆみであることが多く、重度のかゆみによるQOL低下のために、肝
移植を検討せざるをえない症例も存在する。
◎皮膚掻痒症の原疾患による分類(清水宏『あたらしい皮膚科学』中山書店、p.114)
1. 汎発性
1) 内臓疾患
a. 内分泌障害:糖尿病、尿崩症、甲状腺機能異常、副甲状腺機能障害
b. 代謝障害:肝炎、肝硬変、カルテノイド症候群、胆道閉塞性疾患
痛風など
c. 腎障害:慢性腎不全、尿毒症、腎透析など
d. 血液疾患:多血球症、鉄欠乏性貧血
e. 悪性腫瘍:内臓悪性腫瘍、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫(とくに
Hodgkin病、菌状息肉症)、慢性白血病
f. 寄生虫疾患:回虫症、十二指腸虫症
g. 神経疾患:脊髄癆、視床腫瘍
2) 環境因子:機械的刺激、湿度、食餌
3) 薬剤:コカイン、モルヒネ、薬剤過敏症、ブレオマイシン
4) 食品:魚介類(サバ、マグロ、イカ、エビ、アサリなど)、豚肉、ソバ
野菜類(サトイモ、タケノコ、ナスなど)、ワイン、ビール
イチゴ、チョコレートなど
5) 妊娠:妊娠後期
6) 心因性:精神神経症、心因性反応、緊張、ストレス
7) 皮膚の乾燥:老人性皮膚掻痒症
2. 限局性
1) 外陰部:前立腺肥大症、尿道狭窄、トリコモナス症など
2) 肛囲:便秘、下痢、脱肛、痔など
◎新生児の皮膚の水疱性・びらん性疾患の鑑別(NEJM 2007;357:1332)
1. Infectious vesiculopustular dermatoses
1) Herpes simplex virus infection
2) Varicella infection
3) Cytomegalovirus
4) Candida infection
5) Scabies
6) Aspergillus infection
7) Bacterial infection
・Group B streptococcus
・Group A streptococcus
・Haemophilus influenzae type B
・Staphylococcus aureus
・Listeria
・Treponema pallidum
・Pseudomonas
2. Noninfectious transient coditions with vesicles and erosions
1) Erythema toxicum neonatorum
2) Transient neonatal pustular melanosis
3) Miliaria(汗疹、あせも)
4) Neonatal acne
5) Eosinophilc pustular folliculitis
6) Acropustulosis of infancy
7) Sucking blister
8) Trauma
3. Nontransient bullous dermatoses
1) Epidermolysis bullosa
2) Incontinentia pigmenti
3) Epidermolytc hyperkeratosis
4) Hyper-IgE syndrome
5) Herpes gestationis
6) Pemphigus vulgaris
7) Langerhans'-cell histiocytosis
8) Mastocytosis
◎フィナステリド(プロペシア)ー男性型脱毛症の新しい治療薬
(日本医事新報 2006;4282:57)
1. 原因:遺伝と男性ホルモンの関与
テストステロン---(5α-還元酵素II型)--->ジヒドロテストステロン
・5α-還元酵素II型:前立腺、前頭部・頭頂部毛包の限定して存在
・ジヒドロテストステロンが男性型脱毛症発症に関与
2. 診断:家族歴、脱毛の経過、前頭部・頭頂部の髪の細短を確認、遺伝傾向。
(円形脱毛特殊型、慢性休止期脱毛、全身性疾患に伴う脱毛、薬剤性
脱毛などを除外)
3. フィナステリド(プロペシア)の作用
1) 5α-還元酵素II型の阻害薬(これ自体はホルモン作用はない)
2) 前立腺肥大治療薬
3) 5α-還元酵素I型(全身の皮膚、皮脂腺、汗腺、肝臓)活性には影響せず。
4. 投与方法:十分な効果をえるのには1mg/日投与が必要(日本では0.2mg/錠のみ)
5. 副作用
1) インポ、性欲減退等1〜3%あるが自覚的なもので、投与中止の必要はない。
2) 高コレステロール血症、GPT増加、乳腺症の報告あるも非常に少ない。
(ただしBPHに使う5mgの高用量では、女性化乳房、乳腺痛が0.4%。関連
不明なるも男性乳癌が4/14772の割合で発症。また前立腺癌発生を24.8%
抑制したが、それでも発症した前立腺癌は悪性度が高かった)。
3) 禁忌:男児妊娠時フィナステリドに暴露されると外性器が半陰陽になる。
妊婦、授乳婦への投与は禁忌。(男が服用してても問題ない)。
6. 注意
1) フィナステリド(プロペシア)1mg/日投与で前立腺はやや縮小。PSAは約
半分の値になる。
2) 更年期女性の脱毛症にも有効とされる報告あり。
◎繰り返す水疱性疾患(bullous skin lesion)の鑑別診断(NEJM 2008;359:1721)
1. 皮膚原発疾患
Epidermolysis bullosa、dyskeratosis congenita、扁平苔癬、天疱瘡、
類天疱瘡、接触皮膚炎、汗疱(pompholyx)
2. 全身性疾患
1) 感染性疾患:肝炎(acral necrolytic migratory erythema)、コクサッ
キーウイルス感染、ヘルペスウイルス感染症(recurrent erythema
multiforme)
2) 自己免疫疾患:ベーチェット病、SLE
3) 代謝性疾患:ポルフィリア
4) 新生物:necrolytic migratory erythema associated with the
glucagonoma syndrome
5) 消化器系疾患
クローン病、celiac disease、acrodermatitis enteropathica(zinc
deficiency)、cystic fibrosis