腎小体 (糸球体+糸球体包 (ボウマン嚢)) の構造

やや管径の大きな輸入細動脈は血管極で糸球体包を貫通、ついで分枝して密
に吻合する毛細血管の網 (糸球体) を作る。つまり糸球体は血管極より糸球
体包内に懸垂している毛細血管網は血管極から糸球体内にのびる特殊な結合
組織 (メサンギウム = 血管間膜) によって支持されている。 (血管間膜は腸
間膜に相当するといえる) 。
糸球体から出る輸出血管は普通と違って細動脈の構造を持つので輸出細動脈
(輸出細静脈と呼ばない) という。輸出細動脈は輸入細動脈より径が細くこ
れによって血漿を濾過するに必要な圧を維持している。糸球体毛細血管表面
は足細胞層で覆われ血管極で足細胞層は反転し包上皮へと続きさらに近位尿
細管の初部と連なる。(足細胞 = podocyte)

※★毛細血管内皮細胞と★足細胞 (血管間膜 (メサンギウム) が直接張って
 いる部位に存在する) と★足細胞基底膜 (足細胞と血管間膜 (メサンギウ
 ム) の間に存在する) が毛細血管網の構成要素であり、血管間膜 (メサン
 ギウム) がそれを支持する。

※糸球体フィルターの構成成分
 (1). 毛細血管内皮:毛細血管内皮細胞と無数の孔 (有窓性毛細血管) を持
   ち、血液中の細胞部分以外の全ての成分を通過させる。
 (2). 糸球体基底膜:毛細血管内皮を覆っていて孔はない。また基底膜は隣
   接した毛細血管周囲へと続くのでビッシリと隈なく覆っている分けで
   もない。(基底膜のない部分は毛細血管内皮細胞自身またはメサンギ
   ウム細胞で埋められる)
   基底膜は分子量65000 の遊離 Hb 及びもっと小さい分子は通過出来
   るが、分子量68000 のアルブミンとそれ以上の大きな分子は通過出
   来ない。つまり基底膜は限外濾過器である。
   (糸球体基底膜 = 毛細血管基底膜)
 (3). 足細胞:糸球体毛細血管 (および基底膜) を覆っている。一次突起と
   いう長い細胞質突起と、その一次突起から伸びる二次足突起を出し、
   夫々の二次足突起は指状に密に絡み合って糸球体基底膜上に直接載っ
   ている。指状に嵌り合った間隙をスリット孔というが、濾過作用にお
   ける指状嵌合(スリット孔 = 25nm) の役割は不明。
 ★足細胞は糸球体包 (ボウマン嚢) に続いている上皮細胞の内の糸球体側
  の部分である
☆濾過されるに大きすぎる分子は糸球体毛細血管に止まりコロイド浸透圧を
 維持して全ての水が血漿から濾過されるのを防いでいる。
☆糸球体と糸球体包の間には包内腔があり迷路状になって糸球体に入り組ん
 でいる。糸球体包は糸球体包を形成する上皮細胞と糸球体包の基底膜 (薄
 い膜) から構成され、尿細管極と呼ばれる部位を経て近位曲尿細管に移行
 する。

※メサンギウム (メサンギウム細胞とメサンギウム基質) (= 血管間膜)
 糸球体全体の構築はメサンギウムによって支持され、メサンギウム基質は
 基底膜の様な網目を形成しそこにメサンギウム細胞が散在する。中胚葉起
 源と考えられ、周皮細胞 (pericyte) と近縁、食作用をもち間質や膠原線
 維を産生する。
 メサンギウム基質と糸球体基底膜は PAS (過ヨウ素酸-Schiff) 染色で赤
 紫色に染色される。

※乏尿:尿量 500ml/日 以下 ※無尿:尿量 100ml/日 以下と考える。








腎不全の進展

           各種の原因・疾患
              ↓
 高血圧 ーーーーー→ 機能ネフロンの減少 ←ーーーーー 高蛋白負荷
  ┃           ↓             ┃
  ┗ーーーーーーーー→ 糸球体高血圧  ←ーーーーーーー┛
           糸球体内皮細胞障害 ーーーーーーーーー┓
            ↓      ↓          ↓
      メカニカルストレス  内圧濾過障害 ←-----┏ PDGF上昇  ┓
            ┃      ┃       ┗ TGF-β上昇 ┛
            ┃      ┃          ┃
            ↓      ↓          ┃
          メサンギウム細胞の増殖 ←ーーーーーーー┛
            ┃      ↓
            ┃      間質型コラーゲンの増加
            ┃            ↓
            ↓      糸球体マトリクス増加
            糸球体硬化症 ←ーーーーー┛

※ ACE 阻害剤による腎不全の進展予防
 (1). 輸出細動脈を拡張し糸球体内圧を低下させる。結果蛋白尿減少、糸球
   体硬化予防
 (2). 糖代謝に影響しない。
 (3). 心不全にも有効
 (4). 降圧の目標は 140/85 。
★注意
 (1). クレアチニンが 2.5以上では腎不全を悪化させるおそれがある、使用
   中止。
 (2). 高K血症誘発のおそれ。(カリウムの上昇傾向があれば中止)
 (3). 咳の誘発。
 (4). 高齢者には 1/2 〜 1/3 量を使う

※その他、腎不全に影響する事がら
 (1). 高脂血症 → リポ蛋白増加 → メサンギウム細胞への取り込み・細胞
   増殖 → 糸球体硬化
 (2). 高齢者 + 発熱 + 脱水 + NSAID (NSAID は腎血流量を低下させる)
 (3). 腎不全にメバロチン → 横紋筋融解症
 (4). 高齢者は腎不全の予備軍。








原発性糸球体腎炎の診断手順

 
              持続性血尿・蛋白尿 (★血清 Cr が異常な時は既に 50% 以上障害)
                   ↓
              続発性糸球体腎炎の除外:膠原病・血管炎・paraproteinemia
                   ↓      糖尿病・高血圧・肝障害
              原発性糸球体腎炎
                   ↓
   _________________________________________________________________________________
   ↓         ↓          ↓          ↓         ↓
 先行感染     Cr、BUN上昇   尿蛋白 1.0g/d 未満   尿蛋白 3.5g/d   尿蛋白 3.5g/d 
 潜伏期・浮腫    GFR 低下    GFR 正常           以上        以上
 高血圧      血尿 (++)      (80ml/m 以上)             GFR 低下 (80未満)
 GFR↓・補体↓  蛋白尿 (++)       ┃          ┃         ┃
 A群溶連菌       ┃         ┃          ┃         ┃
 ASO・ASK       ┃         ┃          ┃         ┃
   ↓         ↓         ↓          ↓         ↓
 急性糸球体腎炎   急速進行性    慢性糸球体腎炎 ←→ ネフローゼ ←→ 慢性糸球体腎炎
           糸球体腎炎     (潜在型)       症候群      (進行型)
   ↓         ↓         ↓          ↓        ↓
 管内性増殖性    ※管外性増殖性    メサンギウム増殖性糸球体腎炎 (IgA・非IgA)
  糸球体腎炎     糸球体腎炎     膜性腎症・膜性増殖性糸球体腎炎
           (半月体形成性)    巣状糸球体硬化症・微小変化型ネフローゼ症候群
                      [菲薄基底膜病]

※管外性増殖性糸球体腎炎 (半月体形成性糸球体腎炎)
  数か月単位の急速な悪化抗糸球体基底膜 (GBM) 抗体・抗好中球細胞質
  (ANCA) 抗体を調べて抗糸球体基底膜抗体病 (Goodpasture 等) や
  ANCA 関連糸球体腎炎の可能性や PN・Wegener肉芽腫症を検討。
  急速な経過でも血尿・蛋白尿が軽ければ間質性腎炎を疑って薬剤に注意
  する。

●糸球体性血尿:潜血反応 (+)・顕微鏡で毎視野 5個以上・持続性・赤血球
        円柱あり
        赤血球変形 (70% 以上の赤血球に変形)
●糸球体性蛋白尿:一日蛋白排泄量1.0g/日 以上は糸球体基底膜障害による
         可能性が高い
         一日蛋白排泄量1.0g/日 以下でも血尿を伴えば糸球体性
         の可能性。
 ※電気泳動で尿蛋白を検討
  a. γ-gl 等高分子蛋白の漏出があれば糸球体基底膜障害が明らか。
  b. 低分子蛋白のみの排泄、または尿中 NAG・尿中β2MG の増加は尿細
    管障害 (再吸収障害) を示し間質性腎炎を考える。








慢性糸球体腎炎の臨床と組織型

 (1). 高度血尿 (2 + 〜 3+) ・軽度蛋白尿 (1.0g/日 未満)
  GFR 正常:メサンギウム増殖性糸球体腎炎 (IgA) ・菲薄基底膜病
   ※菲薄基底膜病:非進行性・症状は IgA に似ている・予後良好
           (IgA 腎症は腎不全に進行することもある)

 (2). 高度血尿 (2+ 〜 3+) ・中等度以上蛋白尿 (1.0g/日 以上)
  GFR 低下:メサンギウム増殖性糸球体腎炎 (IgA・非IgA)
        膜性増殖性糸球体腎炎・巣状糸球体硬化症

 (3). 軽度血尿 (+〜−) ・軽度蛋白尿 (1.0g/日 未満)
  GFR 正常:メサンギウム増殖性糸球体腎炎 (非IgA)

 (4). 軽度血尿 (+〜−) ・中等度以上蛋白尿 (1.0g/日 以上)
  GFR 正常:膜性腎症 (成人 > 小児)
        微小変化型ネフローゼ症候群 (成人 < 小児)








溶連菌感染後糸球体腎炎 (APSGN、管内性増殖性糸球体腎炎)

※先行感染・潜伏期の存在・異常尿所見・血清補体価の低下が重要
 (1). 原因:A群β溶連菌 (M-12 型が多い、他に1, 2, 4, 18, 25, 49,
      55, 57, 60 等)
   M-12 型:上気道感染に伴う、冬に多い
   M-49, 55, 57, 60型:皮膚感染に伴う、夏に多い

 (2). 臨床症状
  a. 先行感染の後一定の潜伏期の後発症:上気道感染 (平均約10日後)
                     皮膚感染 (3 〜 6週間後)
  b. 乏尿又は無尿 (無尿が 3日以上続くことはない) 。肉眼的血尿は
   約1/3 にある
  c. 浮腫 (眼瞼や手、軽度):小児で腹水・成人で肺水腫がみられること
               がある
  d. 高血圧:悪性にはならない、利尿とともに 1週間前後に消失
  e. 心不全症状 (20 〜 70%) :心拡大・肺鬱血・頻脈・咳・息切れ等
  f. その他:微熱・悪心・嘔吐・腹痛・倦怠感・食欲不振 (一般の軽度)

 (3). 検査所見
  a. 先行溶連菌感染の指標
   ASO:感染後1 〜 3週で上昇、3 〜 5週でピーク、数か月後正常化
       腎炎発症の危険性・重症度とは無関係
       溶連菌感染による上気道感染でも 20 〜 30% は上昇しない
       (皮膚感染では上昇率はさらに少ない)
   ※ anti-hyaluronidase や anti-DNase B は効率に上昇する
  b. 血尿:必発する
  c. 蛋白尿:ほぼ全例 。ネフローゼ症候群を呈するのは10% 以下
       長期多量の蛋白尿は予後不良の徴である
  d. 病初期に尿中白血球増加を見ることあり (糸球体の浸潤した白血球の
    排泄)
  e. 腎機能:血清クレアチニンは軽度上昇に止まる。BUN も約40% に
       上昇、GFR は低下、RPF (腎血漿流量) の低下は重症例以外
       は比較的軽度 (FF (濾過率) は低下)
  f. ナトリウム分画排泄
   (FENa) =[(U-Na) x (S-Cr)] / [(S-Na) x (U-Cr)] x100
   腎不全で上昇するはずだが一般に急性期には 0.5% 以下と低下、あた
   かも腎前性腎不全のパターンをとるが、これは強い糸球体の炎症に伴
   う糸球体内決流量の低下の為と考えられている
  g. 血清補体価の一過性低下 (ほぼ全例にみられ 6週以内に正常化)
    診断的価値が高い、慢性糸球体腎炎との鑑別にも有用、予後とは無
    関係。C3 の減少が著しい。
   ※補体値の低下が持続する場合は、膜性増殖性糸球体腎炎・ループス
    腎炎・本態性クリオグロブリン血症・感染性心内膜炎を鑑別
  h. その他:CIC (免疫複合体):発症早期に陽性、腎炎がなくても溶連
        菌感染のみでも高値を示すので腎炎の診断的価値は低い
        初期に IgA・IgM が高値のことがある

 (4). 治療
  a. 入院・安静・保温、入院は約1 〜 2か月
   1年間は過激な運動をしてはいけない。妊娠も避けるべき
  b. 食事:塩分・水分・蛋白制限。高カロリー食
  c. 先行溶連菌感染の発症初期にペニシリン系かセファロスポリン系抗
   生剤を1 〜 2週間投与(感染病巣の存続や再燃を防止、年齢を問わな
   い)
  d. 浮腫や高血圧は自然軽快するが、ループ利尿剤を用いることもある
  e. 降圧剤はヒドララジン・メチルドーパ・Ca 拮抗剤・ACE 阻害剤から
   選択
  f. ステロイドは通常使わない








慢性腎炎・慢性腎不全

※慢性腎不全の原因疾患
 (1). 原発性糸球体腎炎:APGN・CN (IgA 腎症)・膜性腎症
            巣状糸球体硬化症
 (2). 腎血管疾患:腎硬化症・腎血管性高血圧・悪性高血圧
 (3). 感染症:Tbc・慢性腎盂腎炎
 (4). 腎障害を来す代謝性異常:DM・痛風腎・アミロイド腎
 (5). 慢性放射線性腎障害
 (6). 腎毒性物質:中毒性腎症・NSAID・セフェム・ペニシリン・アミノ
         グルコシド・サイアザイド・免疫抑制剤・抗癌剤・ヨー
         ド剤・重金属製剤
 (7). 腎尿細管病変:慢性間質性腎炎
 (8). 慢性閉塞性病変:U-T 腫瘍・前立腺癌及び肥大・結石
 (9). 両腎の先天性異常:形成不全・多発嚢胞腎・遺伝性腎炎
(10). その他:MM・慢性高Ca血症・加齢・膠原病 (SLE・PN)

※わが国の透析患者の実態
 (1). 1980年頃から急に増加、1994年に143,709人 (250,000人まで増
    加?)
 (2). 10歳以下の透析患者は15年で 1/10 に減少した。10 〜 30歳でも
    減少。
 (3). 原因疾患について (糖尿病と高血圧に基づく腎硬化症が著増)
   ・慢性糸球体腎炎
    5,362人 (64.7%・1980年) --> 9,745人 (40.5%・1994年)
   ・糖尿病性腎症
    790人 (9.5%・1980年) --> 7,376人 (30.7%・1994年)
   ・腎硬化症
    165人 (2.0%・1980年) --> 1,474人 (6.1%・1994年)
   ・多発嚢胞腎
    187人 (2.3%・1980年) --> 601人 (2.5%・1994年)

※慢性腎不全の病期分類
 (1). 第I期:腎予備能減少期
       腎機能 50% 以上・排泄機能は維持・血中溶質の蓄積なし
 (2). 第II期:代償性腎不全期
        腎機能 50 - 30% ・尿濃縮力低下・多尿・夜尿・軽度高窒
        素血症
 (3). 第III期:非代償性腎不全期
        腎機能 30 - 5% に低下・多尿期を経て尿量減少・高窒素
        血症著明・慢性腎不全の諸症状出現
 (4). 第IV期:尿毒症期

※慢性腎不全の増悪因子
 (1). 高血圧・急な降圧
 (2). 感染
 (3). 薬物:NSAID・抗生剤・抗癌剤・造影剤
 (4). 脱水・利尿剤
 (5). 心不全
 (6). 電解質異常
 (7). 高尿酸血症
 (8). 尿路閉塞
 (9). 悪性腫瘍
(10). 手術 (出血・低血圧)
(11). 激しい筋運動

※慢性腎不全に用いる薬剤
 (1). 降圧剤:Ca 拮抗剤・ACE 阻害剤・ループ利尿剤
 (2). アルカリ製剤:重曹
 (3). K 補正薬:カリメート・ケイキサレート
 (4). Ca・P 調節薬:炭酸 Ca・活性型ヴィタミンD
 (5). 高尿酸血症:アロプリノール
 (6). 貧血改善:エリスロポエチン
 (7). クレメジン (吸着製剤)
 (8). アミノ酸製剤:アミユー

※慢性腎不全 (保存期) の食事療法
 低蛋白・低 P・高熱量 (低栄養を防ぐ)

GFR
(ml/min)
摂取蛋白
(g/Kg/day)
リン
(mg/d)
熱量
(Kcal/Kg/d)
70 より多い 1.0 - 1.2 900 以下 35 以上
30 - 70 0.8 - 1.0 700 - 900 (+Ca) 35 以上
30 より少ない 0.6 - 0.8 700 以下 (+Ca) 35 以上

※主な高 P (リン) 含有蛋白
 ・レバー・魚・卵・ナッツ類・チーズ (800g 以上/週)
 ・ココア・チョコレート・牛乳 (180ml 以上/日)
  (※低蛋白が腎不全進行を抑制することの本体は低P食である。という
    考えもある)

※リン制限食・P 制限食
 (1). 主食に低リン食品を使う
   特精米:白米の 1/3 のリン含量
   低蛋白餅、低蛋白麺:通常の 1/2 のリン含量
 (2). 副食:
   卵を (特に卵黄) 一日一個以上食べない
   内蔵ごと食べてしまう食品 (ワカサギ・ドジョウ・小魚等) を減らす
   牛乳・ヨーグルト・チーズなどの乳製品を摂らない
   海藻 (のり・こんぶ・わかめ等) を控える
 (3). 加工食品:添加物としてリン酸塩が使われているものあり、なるべく
   手作り食品とする。
 (4). 野菜やイモ類はゆでこぼしたり、流水にさらしてから調理。

※慢性腎不全の透析導入基準
 ★ I. 臨床症状
  ◇体液貯留 (全身浮腫・低蛋白・肺水腫)
  ◇体液異常 (管理不能の電解質・酸塩基平衡異常)
  ◇消化器症状 (悪心・嘔吐・食欲不振・下痢 等)
  ◇循環器症状 (高血圧・心不全・心膜炎)
  ◇神経症状 (中枢・末梢;精神症状)
  ◇血液異常 (高度の貧血・出血傾向)
  ◇視力障害 (尿毒症性網膜症・糖尿病性網膜症)
 これら 7項目のうち
 (1). 高 度:三個以上のもの    (30点)
 (2). 中等度:二個         (20点)
 (3). 軽 度:一個         (10点)

 ★ II. 腎機能
血清クレアチニン
(mg/dl)
(CCr) 点数
 (1). 8 以上 (10 未満) 30点
 (2). 5 - 8未満 (10 - 20 未満) 20点
 (3). 3 - 5 未満 (20 - 30 未満) 10点

 ★ III. 日常生活障害度
 (1). 高 度:尿毒症のため起床できない      (30点)
 (2). 中等度:日常生活が著しく制限されている   (20点)
 (3). 軽 度:通勤・通学・家庭内労働が困難    (10点)

 ●結論
  上記 I. II. III. の総合点が 60点 (70点) 以上となる末期腎不全を透析
  導入とする。
  (注意:10才未満、65才以上、全身性血管合併症のあるものは 70点)








腎保護を考慮した高血圧治療

 (1). 血圧を 140/90 未満にコントロールする。

 (2). 腎不全の兆候を早期に捉えて評価する。
   血清クレアチニン (S-Cr) > 1.4mg/dl (50% 以上の腎機能障害)
   血清クレアチニン (S-Cr) > 1.3mg/dl (60歳以上の高齢者)

 (3). 減塩食を勧める (NaCl で 5g/日 以下、Na で 100mEq/日 以下)

 (4). ループ利尿剤を使用 (血清クレアチニン 2mg/dl 以上)
   ★アルダクトン・サイアザイドは禁忌
   ★クレアチニン 2.5 以下なら ACE 阻害剤がベストといわれる。
   ★使い易いのは Ca 拮抗剤。浮腫・心不全にはループ利尿剤を併用
    (ACE 阻害剤は輸出細動脈を拡張、Ca 拮抗剤は輸入細動脈を拡張)

 (5). 単剤で血圧コントロールが難しければループ利尿剤を併用

 (6). 血清クレアチニンと電解質を頻回に測定。

 (7). 全ての心血管合併症を評価し管理する。








透析療法の問題点

 (1). 種々の合併症

 (2). 溶質除去の面からは透析膜の性状に応じて種々の制約がある。
   BUN:例え低下しても1 〜 2 日以内にもとの水準に戻る。したがっ
      て尿毒症状態は永久に続く。

 (3). 絶えず透析膜と接する血液はその刺激で補体が活性化され種々のサイ
   トカインが産生し続けられる。 (患者の免疫能に大きな影響)

 (4). 続発性上皮小体機能亢進症








慢性血液透析患者の合併症

 1). ブラッドアクセス不全 (内シャントの修復・新設が必要)

 2). 免疫不全 (易感染性)

 3). ウイルス肝炎 (B・C)

 4). 低カルシウム血症・高リン血症・異所性石灰化

 5). 続発性上皮小体機能亢進症・低下症

 6). 透析骨症 (高回転・低回転)

 7). アミロイドーシス (骨症・手根管症候群・破壊性脊椎関節症)

 8). 皮膚掻痒症

 9). 腎性貧血

10). 動脈硬化症 (冠動脈・四肢 --> ASO)

11). 血圧異常・透析中血圧不安定

12). 心機能異常 (不整脈・弁石灰化・心外膜炎・心筋障害・心不全)

13). 脳血管障害

14). 後天性多発性嚢胞萎縮腎

15). 悪性腫瘍 (消化器・泌尿器癌 > 子宮癌・呼吸器癌、20%は1年以内)

16). 虚血性腸炎、腸管壊死

17). 低栄養状態 (慢性消耗症候群)

18). 視力障害

19). 精神神経症状 (イライラ・不眠症・敗北感・鬱傾向)

20). 早老症 (progeria)








透析患者の死因

 (1). 心不全 (31.3%)

 (2). 脳血管障害 (12.7%)

 (3). 感染症 (11.6%)

 (4). 悪性腫瘍 (7.2%)

 (5). 尿毒症/悪液質 (6.2%)

 (6). 心筋梗塞 (5.7%)

 (7). カリウム中毒/突然死 (3.9%)

 (8). 出血 (3.8%)

 (9). 慢性肝炎/肝硬変 (1.9%)

(10). その他:自殺や拒否 (0.9%)、腸閉塞 (0.7%)








ネフローゼ症候群

※ネフローゼ症候群の原因疾患
 ◇原発性糸球体腎炎
  (1). 微小変化群
  (2). 膜性腎炎 (症)
  (3). 巣状糸球体硬化症
  (4). 膜性増殖性腎炎
  (5). その他の増殖性腎炎

 ◇全身性疾患および続発性糸球体病変
  (1). 膠原病および類縁疾患 (SLE・PN・WG etc)
  (2). 糖尿病性腎症
  (3). アミロイドーシス
  (4). 悪性リンパ腫・癌
  (5). 薬物 (ペニシラミン・インターフェロン・金 etc)








IgA 腎症

 (1). 20歳代をピークとする若者に多い (男:女 = 2:1)

 (2). 尿所見では蛋白尿より血尿が顕著

 (3). 咽頭炎罹患時、潜伏期なく尿所見が悪化

 (4). 尿蛋白量の多い例は腎不全への進行のリスクが高い (全体の10 -
   20%)

 (5). 約半数に血清 IgA の上昇をみる

 (6). 巣状、分節状メサンギウム増殖性腎炎が基本病型

 (7). 増殖部位に IgA の著明な沈着

 (8). Bowman 腔へ半球状硝子物質の突出を見ることがある








学童検尿・学校検尿 (血尿・蛋白尿)

※早朝第一尿を 2回検査し、その両者陽性を陽性とする (東京方式)
 (1). 陽性者の実態
   小学生:蛋白尿 (0.1%)、血尿 (0.5%)、蛋白尿・血尿 (0.03%):
        630人/10万人
   中学生:蛋白尿 (0.4%)、血尿 (1.0%)、蛋白尿・血尿 (0.1%):
        1500人/10万人
   (小学校入学から卒業までの縦断的頻度は約1.5% に尿異常が出現)
   (おそらくこれらの内、約 1/5 〜 1/10 が、慢性腎炎を有するだろ
    う)

 (2). 要管理尿異常の基礎疾患と出現頻度 (夫々のうちの何%が重要疾患か
   ?)
  a. 蛋白尿単独陽性 (15%)
    糸球体腎炎・水腎症・尿路感染症・両側低形成腎(起立性蛋白尿を
    除く)  逆流腎症 (かなり進行した腎疾患が発見される事あり)
    ※蛋白尿の程度と組織障害は相関。起立性蛋白尿など体位性蛋白尿
     を除外。
  b. 血尿単独陽性 (5%)
    糸球体腎炎・水腎症・嚢胞腎・尿路結石・高 Ca 尿症
    イ. 微少血尿 (20以下/HPF):疾患は血尿単独陽性の3%以下
    ロ. 血尿 (21以上/HPF):殆どはこの枠内で疾患を発見
    ※イ. ロ. 共に糸球体腎炎は IgA 腎症。経過観察が不可欠。
  c. 蛋白尿/血尿陽性 (70%)
    大部分糸球体腎炎、その他は蛋白尿単独陽性と殆ど同じ
    ※主に IgA 腎症だが膜性、膜性増殖性、巣状糸球体硬化症等の発
     見
    ※蛋白尿の程度と組織障害は相関。精密検査に持ってゆく。

 (3). 尿異常に対する二次検査 (腎機能、ネフローゼ、感染症の有無)
  a. 尿検査:早朝第一尿、昼間尿 (体位性蛋白尿を除外する)
    蛋白 (ズルホ、煮沸法)、潜血反応、糖、尿沈渣
  b. 問診、家族歴、既往歴 (熱性疾患等)、診察
  c. 血圧
  d. 身長、体重
  e. 血液検査:CBC
  f. 血清検査:総蛋白、アルブミン、A/G、総コレステ、BUN、クレアチ
    ニン、CRP、ASO
  ※暫定診断:腎炎 > 腎炎疑い > 無症候性蛋白尿 > 無症候性血尿 > 無症
   候性微少血尿 (白血球尿は尿路感染の疑いとする)

 (4). 二次検査異常に対する三次検査
  a. 身長、体重、血圧測定
  b. CBC、網赤血球、血液像
  c. TP、蛋白分画、BUN、Cr、尿酸、総コレ、GOT、GPT、ALP
    LDH、Na、K、Cl、Ca、P
    CRP、ASO、C3、IgG、IgA、IgM、IgE、β2MG
    血清補体値 (CH50、C3、C4)
    ACNA (好中球細胞質抗体)、抗核抗体、抗DNA 抗体など
  d. 尿一般、尿沈渣、尿生化学検査
    尿Cr、Ca、Na、NAG、尿β2MG
  e. 腎及び腹部超音波 (時に腹部CT)

 (5). 腎生検の適応
  a. 蛋白尿が早朝尿で 100mg/dl 以上の症例
  b. 腎疾患を示唆する症状・所見あり
  c. 蛋白尿・血尿両者陽性
  d. 泌尿器科的疾患、ナッツクラッカー現象、高 Ca 尿症等を否定した肉
    眼的血尿

 (6). 管理
  a. 三次検査で異常のない無症候性蛋白尿、無症候性血尿は放置して経
    過観察
    その 50% は 1年以内に尿異常が改善する。
  b. 無症候性蛋白尿 (++) 以上は C区分 (軽い運動を許可)
  c. 無症候性蛋白尿 (+)、無症候性血尿 (++) 以上は D区分 (軽い 〜 中等
    度運動を許可)
  d. 無症候性蛋白尿 (+-) 、無症候性血尿 (+) で尿所見が安定していれば
    E区分 (制限の必要なし)
  ※但し尿異常が発見されて 3か月以内は一段厳しい判定。
  ※食事制限は基本的には腎不全の子供に対してのみ行う。








蛋白尿について

A. 尿蛋白定性検査法

  試験紙法 スルホサリチル酸 法煮沸法
原理 pH 指示薬の蛋白誤差 酸による蛋白の変性混濁 熱による蛋白凝固
感度 10 〜 20mg/dl 5mg/dl以上 20mg/dl 以上
特異性 アルブミンのみ アルブミンとグロブリン アルブミンとグロブリン
偽陽性 濃縮尿、強度アルカリ尿、血尿、キニーネ、フェナゾピリジン、消毒殺菌剤 (逆性石鹸) 造影剤、 濃縮尿、血尿、多量の薬物 (抗生剤、トルブタマイド) 、デキストラン 造影剤、デキストラン、ペニシリン系薬剤
偽陰性 希釈尿、免疫グロブリン-L 鎖、強度酸性尿 強度アルカリ尿、強度の酸性尿 強度アルカリ尿

B. 蛋白尿の分類:一般に尿蛋白は起立位や腰椎前湾位で増加する。
 1. 生理的蛋白尿
   ・正常尿蛋白
   ・運動性尿蛋白
   ・血行動態性尿蛋白:運動、高熱、精神緊張、心不全、血管作動物質
 2. 体位性蛋白尿 (起立性蛋白尿)
 3. 病的蛋白尿
  a. 腎前性蛋白尿 (オーバーフロー蛋白尿)
   ※血中に低分子蛋白が増加して糸球体での濾過量が尿細管での再吸収
    を上回る場合
   ・免疫グロブリンの light chain (Bence-Jones 蛋白)、リゾチーム
    ミクログロビン、ヘモグロビン、アミラーゼ
   ・骨髄腫、不適合輸血、溶血性貧血、ミオグロビン尿症、火傷、急性
    黄色肝萎縮、単球性白血病 (monoclonal-L とリゾチーム)
  b. 糸球体性蛋白尿
   ・糸球体における蛋白透過性亢進
   ・種々の原発性・二次性糸球体疾患で生ず。
  c. 尿細管性蛋白尿
   ※尿細管での再吸収障害がある場合
   ・β2-マイクログロブリン、リゾチーム、レチノール結合蛋白など
    の血中小分子量蛋白
  d. 腎後性蛋白尿:血漿濾過部以下で蛋白の混入する場合
   ・分泌性:Tamm-Horsfall 蛋白、分泌型 IgA
   ・組織由来:酵素、ペプチド
   ・腎後性:腎杯以下の炎症、結石、腫瘍などに由来する蛋白

C. 尿細管間質障害の原因

障害部位  急性  慢性
a. 皮質    
 ・近位尿細管 抗生剤
多発性骨髄腫
リンパ増殖性疾患
 
重金属、免疫性疾患
シスチノーシス
多発性骨髄腫
 
 ・遠位尿細管 抗生剤
免疫性疾患
鎮痛剤
NSAID
高カルシウム血症
閉塞性腎障害
アミロイドーシス
肉芽腫性疾患
免疫性疾患
異常ヘモグロビン血症
 
 
b. 髄質 鎮痛剤
代謝性疾患
感染症
免疫性疾患
異常ヘモグロビン血症
スルフォナマイド
多発性骨髄腫
鎮痛剤
代謝性疾患
感染症
閉塞性腎障害
異常ヘモグロビン血症
肉芽腫性疾患
アミロイドーシス
 
 
c. 乳頭 感染症
異常ヘモグロビン血症
鎮痛剤
糖尿病
閉塞性腎障害
移植腎
感染症
異常ヘモグロビン血症







ネフローゼ症候群について

 A.原因   1.ネフローゼ症候群の基礎疾患としての原発性糸球体疾患の頻度(%)
- 子供 60歳以下成人 61歳以上成人
Minimal-change glomerulopathy 76 20 20
Focal segmental glomerulosclerosis 8 15 2
Membranous glomerulonephritis 7 40 39
Membranoproliferativeglomerulonephritis 4 7 0
Other diseases 5 18 39

 2.ネフローゼ症候群の稀な原因
  a.Fibrillary glomerulopathy
  b.Several forms of amyloidosis
  c.Light-chain deposit disease
  d.Preeclampsia
  e.Infectious disease
   ・Bacterial
    poststreptococcal glomerulonephritis、infectious endocar-
    ditis、syphylis
   ・Viral
    hepatitis B & C、HIV
   ・Protozoal
    quantum malaria
   ・Helminthic
    schistosomiasia、filariasis、toxoplasmosis
  f.Cancer
   mostly associated with minimal-change glomerulonephropa-
   thy or membranous glomerulonephritis
  g.Systemic disease
   mostly SLE
  h.Heredofamilial syndrome
   Alport's syndrome 、nail-patella syndrome、etc.
  i.Proved o rsuspected immune reactions
   ・Drugs
    gold、penicillamine、NSAID、captopril、interfelonα etc.
   ・Environmental antigens
    poison ivy、inhalational antigens、bee sting、etc.
   ・Illicit drugs
    heroin etc.

 3.ネフローゼ症候群における血液凝固亢進傾向の原因
  a.Low zymogen facters
   facter IX、facter XI
  b.Increased procoaglatory cofacters
   facter V、facter VIII
  c.Increased fibrinogen level
  d.Decreased coaglation inhibiters
   antithrombin III(but protein C and protein S increased)
  e.Altered fibrinolytic system
   α2-antiplasmin increased、plasminogen decreased
  f.Increased platelet reactivity
   ・Thrombocytosis
   ・Increased release reaction in vitro
    adenosine diphosphate、thrombin、collagen、arachidonic
    acid、epinephrine
   ・Increased facter IV and β-thromboglobuline in vitro
  g.Altered endothelial-cell function

 4.ネフローゼ症候群を呈しやすい、原発性糸球体疾患の免疫療法
  a.Minimal-change glomerulopathy
   Corticosteroids(alkilating agents、cyclosporine)
  b.Focal segmental glomerulosclerosis
   Corticosteroids(alkilating agents、cyclosporine);
   immunoabsorption
  c.Membranous glomerulonephritis
   Corticosteroids plus alkilating agents;cyclosporine







腎性糖尿について

 1.分類
  a.Marble型
   耐糖曲線正常、一日中また絶食中でも尿糖検出。家族性発症。
   近位尿細管でのグルコース輸送機構の先天的異常。
  b.Lawrence型
   耐糖曲線正常、糖負荷後のみ尿糖検出。
   糖尿病の家族歴を有する率が高く、患者本人の真正糖尿病への移行率も
   高いと言われているが、否定的な見解もある。

 2.尿糖出現閾値など
  a.健常人では濾過されたグルコースは近位尿細管で殆ど再吸収され尿中に
   は30〜130mg/日しか排泄されない。
  b.理論的尿糖量=血糖値×GFR (糸球体濾過率) −TmaxG
          (TmaxG:尿細管再吸収極量、約300mg/分)
   この式から得られる尿糖出現閾値は250〜300mg/dl 以上だが、実際に
   はsplayという現象を通じてより低い血糖値(160〜180mg/dl)から
   尿糖が出現。

 3.腎性糖尿が低血糖を引き起こすか?
  a.明確な解答は困難。
  b.グルコース/ガラクトース吸収不良症候群では低血糖を引き起こすことが
   ある。

 4.妊婦の1割程度に腎性糖尿が見られるが、機構解明は複雑。
  耐糖能異常、GFR上昇、TmaxG低下、splay部分の増大などが絡み合って
  いると考えられる。








急性腎不全の鑑別診断の指標

診断指標 腎前性 腎実質性(急性尿細管壊死)
 FENa(%) < 1 > 1
 RFI(=尿Na/(尿Cr/血清Cr)) < 1 > 1
 尿中Na濃度(mEq/L) < 20 > 40
 尿中Cr/血中Cr > 40 < 20
 尿中BUN/血中BUN > 8 < 3
 血中BUN/血中Cr > 20 < 20
 尿比重 > 1.018 < 1.012
 尿浸透圧(mOsm/kg H2O) > 500 < 350
 U/Posm > 1.5 < 1.1
 尿沈渣 硝子円柱 顆粒円柱、細胞性円柱
FENa=(尿Na*血清Cr)/(血清Na*尿Cr)×100(%)







膜性腎症について

 A.膜性腎症の病因
  1.外因性病因
   ・B型肝炎ウイルス
   ・マラリア
   ・癩
   ・溶連菌
   ・フィラリア
   ・梅毒
   ・住血吸虫
   ・薬物:カプトリル、D-ペニシラミン
   ・重金属:金、水銀
   ・有機溶剤

  2.内因性病因
   ・悪性腫瘍
   ・SLE
   ・自己免疫性甲状腺炎
   ・痛風
   ・移植腎(de novo病変)
   ・シェーグレン
   ・MCTD

  3.遺伝的要因
   ・HLA DR2、MT1(日本)
   ・HLA DR3、D8(ヨーロッパ)

 B.初診時における膜性腎症の臨床的特徴(昭和大学藤が丘病院、1998)
  a.年齢:16-78歳(49.3+-15)
  b.性別:男性60.3%
  c.発症形式
   ・chance proteinuria:67.1%
   ・浮腫:31.5%
   ・肉眼的血尿:2.7%
  d.尿蛋白量
   ・ネフローゼ症候群:69.8%(3.5〜13.3g/day、10.0g/day以上は
             13.7%)
   ・無症候性蛋白尿:30.1%
  e.血尿
   ・なし:32.9%
   ・顕微鏡的血尿:64.4%
   ・肉眼的血尿:2.7%
  f.血圧
   ・125.9+-30.5/74.9+-7.7mmHg
   ・高血圧(>145/85)は16.4%
  g.浮腫
   ・有り:34.2%
   ・無し:65.8%
  h. 腎機能(Ccr)
   ・70.0ml/min以上:84.9%
   ・70.0ml/min以下:15.1%








糸球体腎炎の基本型の特徴

病理診断名 発症年齢 尿所見 腎不全 病 態 関与する因子
1.微小変化型
  ネフローゼ
〜10代 P ネフローゼ時
数%
基底膜透過性
亢進
IgE
2.巣状分節性
  糸球体硬化症
10代 P 進行性、50% 基底膜透過性
亢進+α
IgE+IgM+α
3.膜性腎症 40〜70代 P 進行性、
10〜20%
基底膜上皮側
にIgG4沈着
IgG4
4.半月体
   形成性腎炎
50代〜 P+B 急速進行性、
約50%
基底膜の破壊 抗GBM抗体
免疫複合体
ACNA、その他
5.メサンギウム
   増殖性腎炎
20〜30代 B+(P) 緩徐に進行、
約30%
メサンギウム
増殖
IgA
(約90%がIgA腎症)
6.膜性増殖性腎炎 10〜20代 P+B 進行性、50% メサンギウム
増殖+膜二重化
IgG3
7.管内増殖性腎炎 〜10代 P+B 一時的、数% 管内に多核
白血球増加
溶連菌成分







移植腎の機能障害の原因の鑑別診断

  1. immediate
    ・Ischemic renal injury
    ・Hyperacute rejection
    ・Urinary leak o rurinary tract obstruction
    ・Vascular thrombosis
  2. Early(a few days to 6 months)
    ・Acute rejection(celluar,humoral,or both)
    ・Nephrotoxicity o calcineurin inhibitors
    ・Urinary tract obstruction
    ・Volume depletion
    ・Thrombotic microangiopathy
    ・Infections
    ・Recurrence of primary renal disease
  3. Late(>6 months)
    ・chronic allograft nephropathy
    ・Acute rejection
    ・Nephrotoxicity of calcineurin inhibitors
    ・Hypertensive nephrosclerosis
    ・Recurrent or new renal disease










急性腎不全の臨床的分類
1. 腎前性
  a. 血圧下降によるGFRの低下
     乏血:出血、火傷、嘔吐・下痢などによる脱水・脱塩など
     心性:新鮮な心筋梗塞、肺梗塞など
     細菌性shock:敗血症、中毒血症など
 b. 血圧下降を伴わないGFRの低下
     脱塩・脱水、急性高Ca血症、痙攣
2. 腎後性
  結石、腫瘍、血腫、後腹膜線維症、炎症、前立腺肥大なとによる尿路閉塞による。
3. 腎性
 a. 糸球体の広範な陣容
    急性糸球体腎炎、膠原病における腎障害、病巣腎炎
 b. 尿細管壊死:この型が最も多い
    1)shock(腎前性の進行したもの)
     外科手術後、不適合輸血、外傷、出血、細菌感染など
    2)腎毒性のもの:4塩化炭素、無機水銀、無機燐、ethylene glycol抗生剤のあるもの
    3)allergy:Phenacetin、Sulfa剤、Penicillin
    4)尿細管閉塞:bilirubin nephrosis(肝腎症候群)、尿酸塩による
     閉塞(痛風腎、白血病)、Sulfa剤、acetazolamideによる閉塞など
    
     この型の劇症のものに両側皮質壊死(bilateral cortical necrosis)
     があり、婦人科患者に比較的多く見られる。







肝腎症候群について 
(内科 1995;75:1113:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
肝腎症候群とは、重症肝実質障害に合併した急性腎不全を指す。歴史的には当
初閉塞性黄疸に対する外科手術後に生ずる腎不全とされたが、最近は末期肝硬変
や劇症肝炎時に腎前性の腎不全の特徴を有し、しかも病理学的にそれを説明する
に足るだけの所見のない、つまり機能的腎不全を意識して診断するようになって
いる。
  検査所見としては、クレアチニン(通常1.5mg/dl)やBUNの上昇のほかに、尿
中のNa排泄量の低下(1mEq/l以下)、FENaの低下(1%以下)など腎前性の腎不全
の特徴を備えることが必須である。尿所見は一般的に軽微で、まったく欠くとき
もある。一般の腎前性腎不全とは検査データ上異なることはほとんどないが、一
般の腎前性腎不全では補液などにより循環血漿量を増加させれば反応性の利尿が
得られるのに対して、肝腎症候群では反応がみられないことで鑑別し得る。
  このような、機能的な腎前性腎不全をきたす機序は腎皮質の細動脈の持続的攣
縮による血流低下であることが各種の検査で確認されており、また、肝機能の回
復に伴って回復することや、その腎を移植した場合も機能が戻ることから可逆的
であることも確かめられている。
  腎血流はレニン・アルドステロン、エビネフリン、ADH、ANP、PAF、エンドセ
リン、カリクレイン・キニン、プロスタグランジンなどの体液性因子や、神経性
因子などの複雑な制御を受けている。肝硬変では門脈域のうっ血を契機に水利尿
が抑制される方向に調節される。ある時期までは腎血管の拡張性因子と収縮性因
子がそれでもバランスされているが、末期にはバランスが崩れて腎皮質細動脈の
持続的攣縮をといたると考えられている。
  劇症肝炎でも腎前性腎不全がみられるが、肝硬変時と同様の機序で起こってい
るか否かは十分解明されていない。また、このときは相当数において急性尿細管
壊死(ATN)が混在している可能性があり、尿所見など十分に検討する必要がある。







腎性尿崩症
(内科 1995;75:1171:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
腎性尿崩症 nephrogenic diabetes insipidus(NDI)は真性尿崩症(DI)と対比
して考えられる。DIは下垂体後葉ホルモンvasopressin(Vp)の分泌不全に由来し
腎集合管の水再吸収不全により多尿を呈する。一方NDIはVp分泌は正常であるにもか
かわらず集合管の水再吸収不全があり多尿を呈するものをいう。NDIには少なくとも
二つのタイプが存在する。
その1)はVp V2 受容体のX染色体連鎖のmutationであり1992年に報告されている
その2)は集合管の尿管側にあるVp-依存性の水チャネルのmutationである。この
場合、Vpが受容体に結合してcyclic AMPが産生されprotein kinaseA(PKA)システ
ムが作動してもチャネルのmutationのためチャネルが開いて水を通すという能力を
失っている。
その3)としてPKAを中心とする細胞内情報伝達系の異常も考えうるが、それを説
明した報告はまだない。
臨床症状は多飲多尿で、乳幼児では脱水のため中枢神経障害を起こしうる。性別
では男性に多い。
診断および鑑別診断では、最大の特徴として尿浸透圧が血漿浸透圧よりも低値で、
尿量は3000cc/日を超えるのが一般的である。鑑別診断として、DI、心因性多尿が
ある。心因性多尿は精神的な要素で多飲が先行し結果として多尿になるもので、飲
水の少ない夜間の尿量の方が少ない。また、水制限試験で尿浸透圧は容易に上
昇る。DIとの鑑別はピトレッシン試験で、水溶性ピトレッシンを10単位筋注するか
200mUを静注する。DIでは明らかに尿量減少をみるがNDIでは反応しない。
治療は適量の水分補給しかないが、クロロサイアザイドが有効な例もあるという。







溶血性尿毒症性症候群
(内科 1995;75:1171:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』) 
溶血性尿毒症性症候群 hemolytic uremic syndrome(HUS)は、溶血性貧血、
血小板減少、急性腎不全を3主徴とする症候群である。HUSは、主に乳幼児にみら
れ、下痢、血便などの前駆症状の後に発症する典型的(流行性)HUSと、年長児
や成人にみられ、前駆症状を伴わずに発症する非典型的(散発性)HUSに大別さ
れる。典型的HUSでは、先行感染(細菌あるいはウイルス)を有する例が多く、
とくに大腸菌の産生するベロトキシンは本症発症の原因として有力視されている
成人例では、散発性で、前駆症状が不明瞭な例が多く、経口避妊薬、
Cyclosporin A、mitomycin Cなどの薬剤による場合や、SLE、悪性高血圧症など
の系統疾患、妊娠、移植に合併するものなどがある。
  本症の成因は細小血管の内皮細胞傷害によると考えられており、傷害された
内皮細胞の傷害によるプロスタサイクリン(PGI2)産生の低下と血栓形成が病態
の根底をなす。病理学的には血栓性細小血管症(thrombotic microangiopathy)
を示し、腎糸球体にその特徴的変化が出現する。糸球体係蹄内皮細胞は腫大し、
基底膜から挙上、剥離し、係蹄内腔は狭小化する。また、細動脈から糸球体係蹄
への血栓形成が認められる。重症例では腎皮質壊死を呈する。
  検査所見では、腎不全に伴う所見として血清クレアチニン、尿素窒素の上昇や
代謝性アシドーシスを呈する。貧血は血栓性細小血管症による溶血性貧血であり、
末梢血では貧血に加え、血小板減少、網状赤血球の増加を認め、塗抹標本では
破砕赤血球が観察される。直接Coombs試験は通常陰性である。溶血に伴いGOT、
LDHおよび間接ビリルビンの上昇、ハプトグロビンの低下を認める。とくにLDHは
疾患活動性と相関する。血液凝固検査では、FDP、TAT(thrombin-antithrombin
III complex)が高値を認めるが、DICとは異なりAPTT、PTの延長は認められない。
 治療法は、予後良好な典型的HUSと重症例が多い非典型的HUSで異なる。重症HUS
に対する特殊療法としては、血漿交換療法、新鮮凍結血漿の輸注、抗血小板薬、
PGI2製剤、ステロイド薬などの薬物療法が行われる。腎不全に陥った場合は血液
透析を施行する。







アルポート症候群
(内科 1995;75:1172:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
 アルポート症候群は、感音性難聴を伴う遺伝性進行性腎炎であり、腎糸球体
基底膜の電顕所見が特徴的な疾患である。その病因は、腎糸球体基底膜構成成分
であるIV型コラーゲンの遺伝子異常であり、現在までにα3鎖とα4鎖(常染色体
劣性遺伝型)、α5鎖(X染色体優性遺伝型:本症の80〜85Yを占めもっとも頻度
が高い)の異常が病因となりうることが明らかになっている。常染色体優性遺伝
型の遺伝子異常は、まだ同定されていない。
  その典型的な臨床像は、幼児期に無症候性血尿で発症し、その後タンパク尿も
加わり、X染色体優性型では、男性は進行性に腎不全にいたるが、女性は軽症の
ことも多い。しかし、常染色体型では女性も早期に腎死にいたる。診断には、
以下のFlinterの基準が用いられている。
   1)血尿の家族歴を有する。腎不全の有無は問わない。
   2)電顕で、特徴的な腎糸球体基底膜像(菲薄化、層状化、断裂など)がみられる。
   3)特徴的な眼所見(円錐角膜、白内障、球状水晶体など)がある。
   4)高音域の感音性難聴がある。
 これら4項目のうち3項目以上を満たす場合を、アルポート症候群と診断する。
しかし最近、診断基準を満たさない例でも、α5鎖遺伝子の変異がみつかって
きているため、現在のところ臨床診断基準は混乱しているといわざるを得ない。
今後は遺伝子診断に基づいた診断基準が作成されることが最良と思われる。
 診断にもっとも重要なポイントは、腎生検所見であることはいうまでもない。
最近、α5鎖のモノクローナル抗体を使うことによって、X染色体優性型の診断
ができることが報告された。この方法は、今まで鑑別が困難な例も多かったアル
ポート症候群の病初期の患者や、軽症の女性患者の腎組織像を、良性家族性血尿
(菲薄基底膜病)と鑑別できる。また、皮膚基底膜でも診断可能であり、今後広
く用いられていくと考えられる。







成人のネフローゼ症候群の原因(NEJM 2005;352:2115)
   1. 腎疾患
    微小変化群、原発性巣状(faocal or segmental)糸球体硬化症
    続発性巣状糸球体硬化症、ショック腎(Collapsing glomerulopathy)
    膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA腎症
    Fibrrillary and immunotactoid glomerulopathies
   2. 全身性疾患
     SLE、糖尿病、B型肝炎、C型肝炎、HIV感染、癌、鎌状貧血、アミロ
    イドーシス、Light-chain- and heavy-chain-deposition disease、
    マラリア、住血吸虫症、梅毒







エリスロポエチン抵抗性腎性貧血の治療
1.エリスロポエチン不応症で最も頻度の高いのは鉄欠乏
  a.血液透析患者では血清フェリチン値は50〜80μg/lでも鉄欠乏の状態であること
   が多い。 
  b.血清フェリチン値が100μg/lの時やトランスフェリン飽和度が20%以下の場合は
   鉄剤投与を検討する。
  c.鉄剤の投与ルートは末期腎不全患者では消化管における鉄吸収が低下しており
   経口鉄剤に伴う嘔気、食欲不振もあって鉄不足が明確な時には、経静脈的投与
   が有効。なお血清フェリチン値が100μg/l以上の場合は経静脈的投与を4週間
   までとして経口投与に変更する。血清フェリチン値が250μg/lを越えたらヘモ
   ジデローシスに注意。
2.感染症、急性・慢性炎症、悪性腫瘍に注意
  a.このような場合は鉄欠乏の有無にかかわらず血清フェリチンが上昇している
   場合が多い。
  b.感染症、慢性炎症ではサイトカイン産生亢進状態が続き、貯蔵鉄利用や骨髄に
   おけるエリスロポエチンの反応低下や幹細胞の増殖抑制を引き起こす。
  c.末期腎不全の原因であるRAやSLEなどの膠原病の再燃にも注目。
3.高度の副甲状腺機能亢進症では骨髄の線維化や赤血球寿命短縮、エリスロポエチン
 不応性貧血がおこる。
 ビタミンDのパルス療法や副甲状腺摘出などを考慮。
4.アンギオテンシン変換酵素阻害薬がエリスロポエチン抵抗性貧血と関連するという
 報告あり。
5.血清ビタミンB12濃度や葉酸濃度が正常であっても、エリスロポエチン投与により
 赤血球の大球化が起こることが知られており、相対的なビタミンB12や葉酸欠乏が
 疑われる。エリスロポエチン不応の原因が特定できない時は栄養状態改善に加えて
 ビタミンB6、B12、葉酸の投与を考慮すべきだろう。またそれ以外にもビタミンC、
 カルニチン、各種ホルモン等エリスロポエチン治療中のアジュバント療法の必要性
 も論じられるようになってきている。







Nutcracker現象(ナッツクラッカー現象)
  左腎静脈が下大静脈に流入する途中で、腹部大動脈と上腸間膜動脈に圧迫される
 現象をいう。そのため左腎静脈内圧が上昇し、腎の血液が腎杯と異常交通して肉眼
 的血尿を呈するものである。腎静脈から下大静脈へ血液が十分に戻れないため、副
 血行路として左性腺静脈(男なら精巣静脈、女なら左卵巣静脈)が拡張する。
  治療としては軽度血尿は薬物療法を行わず経過観察、肉眼的血尿にはプロバンサ
 イン(臭化プロパンテリン)や抗ヒスタミン剤が有効のことがある。出血が高度で
 貧血も強いならば外科的治療が必要。
 <診断>
   1.突然の無痛性の肉眼的血尿(特発性腎出血(再発性、持続性血尿)の一部)
   2.妊娠による悪化がありうる。
   3.腹部エコーや腹部CTで、腹部大動脈と上腸間膜動脈にはさまれて鬱滞拡張
    した左腎静脈を確認。できれば左性腺静脈の拡張を確認。
   4.周辺の血管の走行異常や血行動態異常を伴うものもある。







小児の尿路感染に関連した腎腫瘤(NEJM 2000;342:1735)
 1.congenital anomalies
   ・Duplicated collecting system
   ・Caliceal diverticulum
 2.Neoplasms
   ・Wilms' tumor
   ・Congenital mesonephric nephroma
   ・Neuroblastoma
 3.Infectious lesions
   ・Acute lobar nephronia
   ・Abscess
   ・Xanthogranulomatous pyelonephritis
   ・Malacoplakia
   ・Tuberculosis







Xanthogranulomatous pyelonephritis(黄色肉芽腫性腎盂腎炎、NEJM2000;342:575)
 1.腎腫瘍と酷似していて診断が難しい
 2.腎の実質破壊とともに脂肪の蓄積した組織球を伴う慢性炎症が特徴
 3.中年の女性に多く、また糖尿病、腎臓結石、慢性尿路感染症を合併しており、
  侵された腎臓は腎機能障害をともなう。黄色肉芽腫性腎盂腎炎の75%程度に腎臓
  結石を合併している。
 4.腎臓近傍の組織に浸潤する傾向が強く腸腰筋さえも巻き込むことがある。
 5.あるreviewでは症状は貧血を伴う慢性腎疾患で、熱や繰り返す尿路系敗血症と
  側腹部痛が中心。これに約半分の頻度で肝腎症候群を併発。62%に腎腫瘤を認め
  38%に腎臓結石が存在し、27%の腎臓は機能を失っていた。
 6.腎病変は瀰満性であり、腎悪性腫瘍との鑑別が難しいため、nephrectomyが主たる
  治療法である。ただし最近では画像診断により、手術前確定診断が正確になって
  きているので非手術的治療や部分的腎切除も試みられている。
 7.画像上の特徴
   腫瘤は14/18の頻度で腎臓にびまん性に広がっている。腎結石は12/18に存在し、
  しばしば腎盂の収縮の原因となり、ひいては腎杯の拡張をきたす。腎実質は拡張
  した腎杯または炎症部位に圧迫された像を呈する。病変部の多くは、放射線低濃
  度を示し、造影で辺縁のみエンハンスされる。
   また11/18の頻度で炎症変化の周囲への浸潤を認める。
 8.黄色肉芽腫性腎盂腎炎は成人と子どもでは臨床病理所見が違う
   子どもではしばしば、閉塞性の尿路病変にともなっており、腎結石合併はやや
  少なく、大人より病変のひろがりが小さく巣状である。子どもの多くは慢性消耗
  性で貧血、食欲不振をともなう。







Malakoplakia(マラコプラキア、"soft plague"という意味のギリシャ語、NEJM2000;342:574)
 1.体のどこにでも生じる原因不明の稀な炎症性反応である。
 2.通常は膀胱を侵すが、稀に腎臓にも生じる。
 3.細菌のかけらを含んだマクロファージの中に細菌抗原が持続的に存在したときに
  激しい炎症反応が起こるというのが特徴である。
 4.病理学的な特徴はMichaelis-Guttmann体を認めることである。
 5.損傷されたマクロファージの活性が病理学的誘因と考えられており、多くの患者
  では免疫抑制にともなう激しい全身性病変を呈する。
 6.治療では長期間の抗生剤投与が通常であるが、免疫抑制剤治療での成功も報告さ
  れており、マラコプラキアにおける免疫反応の重要性に注目が集まっている。
 7.腎臓のマラコプラキアは小児では珍しく、また成人と違って局所性(focal)である。
  また腎マラコプラキアは年齢にかかわらず、両側に生じた場合は激症で致命的で
  ある。
 8.孤発性(局所性、巣状)の腎マラコプラキアは腎悪性腫瘍との鑑別が問題となる。
  画像診断では、腎腫大を伴ったびまん性の病変がマラコプラキアに認められている
  が局所性・巣状の病変では何も特徴はない。
 9.泌尿生殖器マラコプラキアの診断は、適切な抗生剤投与にもかかわらず持続感染
  を示唆する症状・所見の存在から、マラキプラキアを疑うことである。







Acute lobar nephronia(Acute focal bacterial nephritis、NEJM2000;342:1736)
 (急性局所性細菌性腎炎)
 1.子どもでは、腎腫瘤を伴う急性感染症はAcute lobar nephroniaだろう。
 2.局所性の非化膿性の炎症で急性腎盂腎炎と腎膿瘍の中間の病変。病態の一部は
  急性腎盂腎炎に似ており、腎実質の炎症をともなって、腎血流の減少や腎実質の
  変性を来す。病変は腎実質の局所に止まる。なおAcute lobar nephroniaの自然
  経過は腎膿瘍に移行する。
 3.典型的症状は急性の発熱を伴った尿路の感染症で、中には糖尿病や貧血をベース
  にもつ患者もある。半分は側腹部痛を訴えるが側腹部圧痛は1/3程度。尿の培養は
  有用で、主にグラム陰性の大腸菌、次いで緑膿菌、クレブシェラ、プロテウスを、
  時にはグラム陽性菌を検出。
 4.腎エコー像は高エコーから低エコーまで様々で、それもhomogeneousではない。
  これは急性腎盂腎炎から腎膿瘍への移行過程の様々な混合病変の反映と考えられ
  ている。病変の発展段階では病変の縁は明瞭でなく、これが腎膿瘍とは違う。
 5.腎CTでは、くさび形の低吸収像で、明瞭な辺縁をもたず、造影効果がないことが
  特徴的とされる。またこの病変は腎周囲には浸潤しない。







透析導入の主要なポイント
  1.腎機能の代行療法renal replacement therapy、RRTを実施するにあたり、腎
   不全に由来する臨床所見とそれを裏づける検査所見が指摘できるか
  2.残腎機能(一旦透析に導人されても病腎の有する残された機能を示す言葉で
   あるが、多くの場合、尿量の維持をいう)を可及的維持するための透析法、
   透析頻度についての配慮
  3.生命維持が腎機能代替器に依存せざるえない患者、および家族の精神的ケア







透析開始の絶対的適応となる末期腎不全の臨床症状
   慢性腎不全が悪化してゆく経過の中で救命のための透析が必要となる状況で
  あり、かつ腎不全を示す血清クレアチニン、尿素窒素の縞度の上昇をともなう。
  1.心外膜炎、とくにタンポナーデの危険がある場合。心筋の動きを抑制して
   いる場合。
  2.利尿薬(ループ利雄薬、又はループ利尿薬とサイアザイド薬との併用)に
   反応しない体液の過剰、とくにうっ血性心不全の危険がある場合
  3.高血圧性脳症発症、高血圧性網膜症の憎悪が予測される薬剤抵抗性の高血圧
   :いわゆる急性進行性高血圧・悪性高血圧の範疇と考えられる場合
  4.中枢神経系症状が顕著となり、更に憎悪する傾向がある場合(尿毒症性脳症、
   混迷、筋痙攣、不穏状態、痙攣発作、一時的に全く視力が消失する場合など)
  5.尿毒症に起因する自覚虹状を伴う貧血、出血傾向
  6.持続する消化器症状(特に朝に出現する吐き気と嘔吐、下痢)
  7.是正困難な電解質異常(低Na血症、高K血症、高度の代謝性アシドーシス)







難治性ネフローゼの定義
  1.定義
    難治性ネフローゼ症候群とは,種々の治療(副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬
   の併用は必須)を施行しても6か月の治療期間に完全寛解ないし不完全寛解I型に
   至らないものである.
  2.参考所見
    不十分な治療による難治例と区別するため,以下の治療法と臨床所見を参考に
   する.
   1)治療前にネフローゼ症候群の診断基準を満たすもの.
   2)副腎皮質ステロイド療法(成人ではプレドニゾロン40〜60mg/日,小児例では
     プレドニゾロン換算0.8〜1.0mg/kgを初期量とする.ただしパルス療法併用の
     有無は問わない)を6カ月継続しても,完全寛解ないし不完全寛解I型に至ら
     ないもので,かつ就学あるいは就業が著しく障害されているもの.
   3)免疫抑制薬(シクロフォスファミド1〜2mg/kg/日,シクロスポリン1.5〜3.0
     mg/kg/日またはミゾリビン2〜3mg/kg/日)を最低4週併用しても,完全寛解な
     いし不完全寛解I型に至らないもの.
   ------------------------------------------------------------------------
     注1. ステロイド依存例および頻回再発例は,別に扱う.
     注2. 完全寛解とは,蛋白尿の消失,血清蛋白の正常化,臨床諸症状の消失が
       みられるもの.
     注3. 不完全寛解I型とは,血清蛋白の正常化,臨床諸症状の消失をみるも,
       尿蛋白のみ存続するもの。







急速進行性糸球体腎炎(RPGN)早期発見のための診断基準
  1)尿所見異常(主として血尿や蛋白尿、円柱尿)
  2)血清クレアチニン高値
  3)CRP高値や赤沈亢進
   上記1)〜3)を認める場合は「RPGNの疑い」として、専門病院受診を勧める。
  但し、エコーが可能ならば腎皮質の萎縮がないことを確認する。
   急性の感染症の合併、慢性腎炎にともなう緩徐な腎機能障害が疑われる場合は、
  1〜2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。
   血清クレアチニンは平均で0.535mg/dl/週上昇する。







急速進行性糸球体腎炎・急速進行性腎炎症候群について
A.急速進行性糸球体腎炎(RPGN)早期発見のための診断基準
  1)尿所見異常(主として血尿や蛋白尿、円柱尿)
  2)血清クレアチニン高値
  3)CRP高値や赤沈亢進
   上記1)〜3)を認める場合は「RPGNの疑い」として、専門病院受診を勧める。
  但し、エコーが可能ならば腎皮質の萎縮がないことを確認する。
   急性の感染症の合併、慢性腎炎にともなう緩徐な腎機能障害が疑われる場合は、
  1〜2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。
   血清クレアチニンは平均で0.535mg/dl/週上昇する。

B.急速進行性腎炎症候群の分類(日本医事新報、No.4025、P12)
  1.原発性
   びまん性半月体形成性腎炎、抗基底膜抗体腎炎、びまん性管内増殖性糸球体腎炎
   半月体形成を伴うびまん性膜性増殖性糸球体腎炎
   半月体形成を伴うdense deposit disease、半月体形成を伴う膜性糸球体腎炎
  2.続発性
   紫斑病性腎炎、ループス腎炎、Gooddpasture症候群、感染性心内膜炎
   Wegener肉芽腫症、PN、混合性本態性クリオグロブリン血症、HUS、HIV感染症

C.急速進行性腎炎症候群の症状(日本医事新報、No.4025、P14)
  全身倦怠感(44.0%)>発熱(42.6%)>浮腫(35.6%)>食欲不振(32.1%)>
  チャンス蛋白尿・血尿(23.1%)>胸部レ線異常(23.1%)>
  関節痛・関節炎(16.9%)>間質性肺炎(14.6%)>肉眼的血尿(12.2%)>
  肺胞出血(11.2%)>紫斑(9.1%)>乏尿・無尿(8.5%)>下血・便潜血陽性(8.1%)>
  ネフローゼ(8.0%)>末梢神経障害(6.9%)>急性腎炎症候群(5.6%)>
  中枢神経障害(5.5%)>心疾患(5.3%)>紅斑(5.2%)>肺炎・肝障害(4.9%)>
  消化管潰瘍(4.6%)>出血傾向(4.1%)>敗血症・DIC(3.9%)>
  Raynaud現象(3.6%)>尿毒症(3.5%)>強膜炎(3.4%)>口腔潰瘍(2.0%)>
  上気道肉芽種(1.5%)>肺肉芽種(1.5%)>四肢壊疽(1.0%)







血尿の原因疾患(日医雑誌 2002;127:733)
  1.腎臓からの血尿
    糸球体腎炎(1gA腎症、急性腎炎、MPGN、FGS、半月体形成性腎炎など)、
   遺伝性腎炎(Alport症候群、ひ薄基底膜症候群など)、全身性疾患に伴う
   腎障害(ループス腎炎、壊死性血管炎、ANCA関連腎炎、Wegener肉芽腫、
   紫斑病性腎炎、Goodpasture症候群、HUSなど)、悪性腎硬化症、
   急性間質性腎炎、腎孟腎炎、腎結核、腎結石、腎外傷、腎梗塞、腎動静脈瘻
   腎静脈血栓症、水腎症、遊走腎、Nut-Cracker症候群、運動性血尿、特発性
   血尿など
  2.尿管からの血尿
    尿管結石、尿管異物、尿管腫瘍、尿管アミロイドーシス、外傷など
  3.膀胱からの血尿
    膀胱炎、腫瘍、結核、結石、異物など
  4.尿道・前立腺などからの血尿 
    尿道腫瘍、尿道結石、尿道炎、尿道異物、尿道外傷、前立腺腫瘍、前立腺炎
   など
  5.その他
    出血性素因(血友病、白血病、血小板減少症など)、近接臓器からの影響
   (直腸癌、子宮癌、骨盤内炎症など)など







◎病的蛋白尿の分類(H18.10、日本医師会雑誌別冊『最新臨床検査のABC』S42より)
 1. 腎前性蛋白尿
  1) 全身性疾患
   ・発熱,心不全,静脈うっ血,無酸素症悪性腫瘍:アルブミン、α1糖蛋白
   ・溶血性貧血:ヘモグロビン
  2) 特殊蛋白
   ・多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症:B-J蛋白
 2. 腎性蛋白尿
  1) 糸球体病変
   ・糸球体腎炎,IgA腎症,ネフローゼ症候群,ループス腎炎,糖尿病腎症
    腎硬化症,痛風腎,腎不全:アルブミン、α1-糖蛋白、トランスフェリン等
  2) 尿細管病変
   ・重金属中毒(カドミウムなど),急性尿細管壊死,流行性出血熱
    ネフローゼ症候群:β2-ミクログロブリン、α1-ミクログロブリン
        レチノール結合蛋白、リゾチーム
 3. 腎後性蛋白尿:尿路病変
   尿管・膀胱・尿道・性器の炎症,結石症,主要な尿路・リンパ管痩
       :類蛋白(アルブモーゼ、酢酸体、ムチンなど)(乳び尿)







◎乏尿・無尿のまとめ(内科2007増大号、Vol.99、No.6、p.1275)
 尿量は腎機能の基本的な指標であり、乏尿・無尿という尿量低下では急性腎
 不全を疑う。急性腎不全はその70%が入院患者で発生し、入院患者の5%、ICUで
 は30%にみられる頻出する病態である。高齢化に伴い、atheroembolic renal
  diseaseの潜在、腎環流の自己調整に影響するアンジオテンシン受容体拮抗薬
 (ARB)やNSAIDsなどの薬剤、手術機会の増加など発生機会が増えている。尿
 は糸球体濾過と尿細管の再吸収により産生され、糸球体濾過は腎血液環流に依
 存する。腎は全血流の20%が通る血行に富む臓器で、平均血圧60mmHg程度まで
 環流が維持される脳や心臓と同様に、腎臓でも平均血圧80mmHg程度まで自己調
 節により血流が維持される。これ未満では腎環流とともに、尿産生も低下する。
 この血圧への依存性から、尿量は全身循環のモニターとなる。
 乏尿・無尿の原因は腎前性、腎性、腎後性に分けられるが、尿産生後の通過
 障害である腎後性を除き、左右の腎を同時に障害する全身性の病態により尿量
 が低下する。
 他方、尿量は必ずしも腎障害自体を反映せず、尿細管の状態によっては尿量
 が低下しないことも多い(非乏尿性腎不全)。すなわち腎不全の重症度を直接
 評価できないうえに、乏尿期間は死亡率に関連しないことなど、尿量は限界の
 あるモニターである。
 また、腎障害単独の急性腎不全は少なく、多臓器不全(MOF)の部分症であ
 ることが多い。SIRSなどの全身性障害や合併症に注意する。
 診断にあたっては、関連する情報を集め状態を把握するため既往、服薬歴を
 聴取し、理学所見、とくに体液量の多寡、末梢循環動態の判定が必要である。
 腎不全の診断にUN、Crなどの血液生化学検査は必須であり、尿生化学所見と合
 わせて、主たる病因を腎前性、腎性、腎後性に特定していく。
 検査としてUSGが有用で、まず腎後性を否定できる。同時に、腎萎縮があれ
 ば慢性疾患の急性増悪(acute on chronic)を示唆する。さらに病状に応じ、
  CVP、UCGのほか、SGカテーテルによる心機能評価が必要となる。
 腎不全の特異的な治療はいまだに開発されておらず、体液量管理による進行
 予防と心肺管理、合併疾患の治療が主体である。溢水による肺うっ血や電解質
 の恒常性が維持できなければ、血液透析などrenal replacement therapy(RRT)
 を行う。
  1.腎前性:55%     
   1) 細胞外液量減少:体液喪失、出血、third spaceへの移行
   2) 心拍出量減少:心不全、心筋梗塞
  2. 腎性:45%
   1) ATN(急性尿細管壊死、acute tubular necrosis)
   ・虚血性
   ・腎毒性物質
    外因性:薬剤、造影剤、重金属
    内因性:横紋筋融解症、挫滅症候群
   2) 腎血管障害
   ・動脈:腎梗塞
   ・小血管:HUS、TTP、DIC、血管炎
   3) 糸球体:糸球体腎炎、急速進行性腎炎
   4) 間質・尿細管障害:間質性腎炎、高Ca血症
  3. 腎後性:5%
   1) 尿管の閉塞:癌浸潤、後腹膜線維症
   2) 尿道・膀胱の閉塞:前立腺肥大症、神経因性膀胱







◎高窒素血症(azotemia、腎前・腎性・腎後)
  (Robert W. Schrier: The Internal Medicine Casebook 3rd Ed.:382-384)
 1. Causes of Prerenal Azotemia
  1) Reduced extracellular and intravascular volume
  ・Gastrointestinal losses (vomitng, diarrhea, nasogastric suction)
  ・Dehydration
  ・Burns
  ・Hemorrhage
  2) Reduced intravascular volume but increased extracellular volume
  ・Cirrhosis
  ・Nephrotic syndrome
  ・Congestive heart failure-cardiogenic shock
  ・Third-space fluid accumulation (postoperative from abdominal
   surgery, pancreatits, peritonitis)
  3) Hemodynamically mediated acute renal failure
  ・Anesthesia
  ・Nonsteroidal antiinflammatory agents (due to renal prostaglandin
   inhibition)
  ・Inhibitors of renin-angiotensin system (due to a decrease in
   efferent arterilar tone)
  ・Hepatorenal syndrome
  4) Vasoconstrictor agents
  ・Calcineurin inhibitors
  ・Contrast agents
 2. Causes of Intrarenal Acute Renal Failure
  1) Glomemlar diseases
  ・Rapidly progressive glomerulonephritis
  ・Postinfectious glomemlonephritis
  ・Focal glomemlosclerosis associated with acquired immunodeficiency
   syndrome
  2) Tubulointerstitial nephritis
  ・Hypersensitivity reactions: penicillins, sulfbnamides,
   fluoroquinolones, and many other drugs
  ・Associated with systemic infections (Legionella, Toxoplasma)
  3) Acute tubular necrosis
  ・Ischemia, hypotension, septicemia
  ・Direct drug toxicity: aminoglycosides, cisplatin, amphotericin,
   contrast agente
  ・Myoglobin or hemoglobin
  ・Acute tubular necrosis in pregnancy
  4) Vascular diseases
  ・Renal artery occlusion
  ・Acute vasculitis
  ・Malignant hypertension
  ・Atheroembolic disease, multiple cholesterol emboli syndrome
  ・Thrombotic microangiopathy
  5) Others
  ・Acute uric acid nephropathy
  ・Hypercalcemic nephropathy
 3. Causes of Postrenal Azotemla
  1) Urethral obstuction
  ・Valves
  ・Strictures
  2) Bladder neck obstuction
  ・Prostatic hypertrophy
  ・Bladder carcinoma
  ・Bladder infection
  ・Functional
  Autonomic neuropathy
   alfa-Adrenergic blockers
  3) Obstmction of ureters, bilateral
  4) Unilateral obstuction in solitary kidney
  ・Intraureteral
   Sulfonamide, uric acid, acyclovir, antiretroviral agent crystals
  Blood clots
  Stones
  Necrotizing papillitis
  ・Extraureteral
   Tumor of cervics, prostate, bladder
  Endometriosis
  Periureteral fibrosis
  Accidental ureteral ligation
  Pelvic abscess or hematoma







◎尿細管障害をきたす主な原因(日内雑誌 2008;97:972)
 1) 薬剤:抗生物質、NSAIDs、放射線造影剤、抗てんかん薬、腎毒性抗癌剤
   漢方薬(アリストロキア酸含有など)
 2) 感染症:腎盂腎炎、腎結核
 3) 全身性疾患:サルコイドーシス、シェーグレン症候群
 4) 代謝・電解質異常:痛風腎、高Ca血症
 5) 血液疾患:骨髄腫腎(cast nephropathy、アミロイドーシス、免疫グロブリン
   軽鎖沈着症)
 6) 重金属中毒:リチウム、鉛、カドミウム、水銀
 7) 急性尿細管壊死:敗血症、腎虚血(心血管手術後、ショック)







◎尿中・血清NAG・β2MG・α1MGが高値・低値になる場合(日内雑誌 2008;97:976)
 1. 尿中NAG
  1) 高値になる場合
   ・尿細管障害:薬剤による、重金属中毒、腎移植拒絶反応、急性尿細管壊死
    腎盂腎炎
  ・糸球体障害:糸球体疾患(急性/慢性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、
    糖尿病性腎症、ループス腎炎)、腎硬化症、腎不全、腎結石、高血糖
     射精後1日間
  2) 低値になる場合
   ・慢性腎不全、高度腎機能障害(Cr3以上)
   ・pH8以上の強アルカリ尿
   ・pH4以下の強酸性尿
 2. 血清β2MG 
  1) 高値になる場合
   ・腎排泄低下:糸球体疾患、慢性腎不全(GFR50ml/min以下)
   ・産生亢進:悪性腫瘍(多発性骨髄腫、白血病、悪性リンパ腫、肝細胞癌
    肺癌、大腸癌、乳癌など)、感染症(AIDS、肝炎ウイルス、EBウイルス
    サイトメガロウイルスなど)、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス
    SLE、関節リウマチ、Sjogren症候群、血管炎など)、その他炎症性疾
    患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)
 3. 尿中β2MG
  1) 高値になる場合
   ・腎前性増加:上記産生亢進疾患
   ・糸球体障害:糸球体疾患、慢性腎不全(GFR低下)
   ・尿細菅障害(血清濃度は正常):腎障害性薬剤、重金属中毒、自己免疫
    疾恵(SLE、RA、SjS、血管炎、サルコイドーシスなど)、遺伝性疾患
    (Fanconi症候群、Wilson病など)、その他(火傷、腎移植拒絶反応、
    腎腎盂腎炎、尿細菅アシドーシス、急性尿細管壊死、骨髄腫腎、痛風
    腎など)
  2) 低値になる場合
   pH5.5以下の酸性尿
 4. 血清α1MG 
  1) 高値になる場合
   ・腎排泄低下:血清β2MGに同じ   
   ・血清IgA増加:IgA増多症、IgA型多発性骨髄腫、感染症
   ・産生亢進:肝細胞癌の−部
  2) 低値になる場合
   ・産生低下:高度肝機能障害(劇症肝炎、非代償性肝硬変、肝切除後、肝
    不全臓)、IgA低下(IgA欠損、免疫不全)
 5. 尿中α1MG 
  1) 高値になる場合
   ・糸球体障害:尿中β2MGに同じ
   ・尿細管障害:尿中β2MGに同じ







◎尿所見からみた糸球体疾患の分類(NIS 2009;4427(H21/2/18):45)

  主な臨床病型 蛋白尿のみ 蛋白尿+血尿 血尿のみ
1.一次性糸球体疾患
1) 微小変化型ネフローゼ ネフローゼ    
2) 膜性腎症 ネフローゼ・慢性腎炎    
3) IgA腎症 慢性腎炎・ネフローゼ
持続的血尿
4) 膜性増殖性腎炎 ネフローゼ・慢性腎炎    
5) 巣状糸球体硬化症 ネフローゼ・慢性腎炎  
6) 半月体形成性腎炎 ネフローゼ  
2.二次性糸球体疾患
1) 糖尿病性腎症 ネフローゼ    
2) ループス腎炎 慢性腎炎・ネフローゼ
3) 腎硬化症 慢性腎炎(1g/日未満)    
4) 腎アミロイドーシス ネフローゼ・慢性腎炎  

◎:最も高頻度、○:中頻度、△:低頻度、空白:稀







◎慢性腎臓病(CKD)と鉄代謝異常について(日医雑誌 2010;139:319-322)
  1. CKDでは造血に有効に使用されない鉄(例えばエリスロポエチン抵抗性状態)は
  造血系以外の生体内(脾臓などの網内系、肝臓だけでなく多くの組織・臓器)に
  蓄積され、細胞内鉄過剰状態に伴うHarber-Weiss反応、フェントン反応を介した
  酸化ストレスの増幅が細胞障害・臓器障害と関連する。
  2. "鉄の囲い込み"
   殆ど全ての細胞には鉄を汲み出す輸送体フェロポルチン1(FPN1)が存在。FPN1
  の発現や調節異常が生体内での鉄代謝異常をきたす。透析患者の多核白血球での
  鉄過剰の原因検討では鉄取り込み蛋白であるTf受容体(TfR)の発現亢進と鉄汲み
  出し蛋白であるFPN1の発現低下を認めた("鉄の囲い込み")。また炎症性サイト
  カインやリポポリサッカライドがFPN1の発現量を遺伝子レベルで調節しており、
  FPN1の発現量が抑制されると細胞内に鉄が滞り血漿中のトランスフェリンに鉄が
  受け渡されず、細胞内鉄過剰状態(血漿レベルでは不足)となる。
  3. ヘプシジン
   鉄輸送体フェロポルチン1(FPN1)を標的として、各細胞に存在するFPN1と結合
  してその機能(鉄の汲み出し)を抑制するのが鉄調節ペプチドであるヘプシジン
  である。ヘプシジンは肝で分泌される主要な調節因子で、血漿内鉄過剰状態や
  IL-6により誘導され、低酸素状態や造血刺激で抑制される。鉄過剰やIL-6産生が
  多い慢性(炎症性)疾患に伴う貧血では腸管細胞やマクロファージからの鉄の汲
  み出しが抑制され、血漿内の鉄が減る(Tfに受け渡されない)ためと思われる。
   炎症を伴わないCKD患者では血中ヘプシジン濃度と血清フェリチンとの間に強い
  相関関係があり、CKD患者の貧血に対処するためにEPoと経静脈鉄投与を行うこと
  が多いが、CKD患者では高ヘプシジン状態であることに注意("鉄の囲い込み")
  し細胞内鉄過剰への警戒を怠ってはならない。