【第11章の補遺】:感染症の知識

性感染症(STD)と病原微生物

  病 原 体 疾  患
a.ウイルス
  Herpes simplex virus1型、2型 性器ヘルペス
Human Papillomavirus 6型、11型 尖圭コンジローマ
Molluscum contagiosum virus 陰部伝染性軟属腫
HIV AIDS
Hepatitis B virus B型肝炎
HTLV-1 成人T細胞性白血病
Cytomegalovirus サイトメガロウイルス感染症
Epstein-Barr virus IMN
b.マイコプラズマ
  Ureaplasma urealyticum 尿道炎
Mycoplasma hominis 膣炎・骨盤内感染症
c.クラミジア
  Chramydia trachomatis (L1〜3) 鼠徑リンパ肉芽腫症
Chramydia trachomatis (B〜K) 尿道炎・子宮頚管炎・
d.細菌
  Treponema pallidum 梅毒
Neisseria gonorrhoeae 淋菌感染症
Haemophilus ducreyi 軟性下疳
Calymmatobacterium granulomatis 鼠徑肉芽腫症
Gardnerella vaginalis 膣炎
Group B streptococcus 膣炎
Shigella,Salmonella 腸管感染症
Campylobacter 腸管感染症
e.原虫
  Trichomonas vaginalis 膣炎
Entamoeba Histlytica アメーバ赤痢
Giardia lamblia ランブル鞭毛虫症
f.真菌
  Candida albicans 膣炎、亀頭包皮炎







ペットからうつる主な病気

病 名 動 物 病原体 感染方法 ヒトでの症状
ネコひっかき病 ネコ   引っ掻き傷、咬傷
ノミによる刺傷
発熱、リンパ節腫脹、髄膜炎、脳炎
パスツレラ症 イヌ、ネコ等 G (-) 短桿菌 引っ掻き傷、咬傷、エサの口移し、空気感染 リンパ節腫脹、sepsis、
骨髄炎、髄膜炎
トキソプラスマ ネコ Toxoplasma
gondii
糞で汚れた砂中や、体毛に付着した虫卵を経口で 流産、死産、リンパ節炎、網脈絡膜炎
イヌ・ネコ回虫症 イヌ、ネコ等 Toxocara canis,cati 糞で汚れた砂中や、体毛に付着した虫卵を経口で 肝脾腫、発熱、視力低下、飛蚊症、網膜芽細胞腫
イヌ糸状虫症 イヌ Dirofilaria
immitis
蚊の刺傷 肺にコイン陰影
皮膚糸状菌症 イヌ、ネコ   直接接触 発疹、皮膚炎
レプトスピラ症 イヌ、
ネズミ等
 
下水、泥を介して四肢傷口より感染
発熱、全身倦怠、筋肉痛、黄疸、出血経口、腎障害
Q 熱 ウシ、ヒツジ、
イヌ、ネコ等
Coxiella
burunetii
汚染された粉塵より経気道的に 急激な発熱
エルシニア症 イヌ、ネコ、ネズミ等 Yersinia sp. 排出物の汚染物より経口で 食中毒、胃腸炎
カンピロバクター症 イヌ、ネコ小鳥 Campyrobacter 排出物の汚染物より経口で 食中毒、胃腸炎
オウム病 小鳥 Clamydia
psittasi
乾燥した糞の吸入エサの口移し 発熱、咳、肺炎
クリプトコックス症 ハト、小鳥   乾燥した糞の吸入 髄膜脳炎、肺炎
サルモネラ症 ハ虫類(ミドリガメetc)
イヌ、ネコ
  排出物の汚染物より経口で 下痢、食中毒
アメーバ赤痢 ハ虫類(ミドリガメetc)
サル(100%)
  排出物の汚染物より経口で 血便、肝膿瘍







ボツリヌス感染症(Clostridium botulinum感染症)の比較

  食餌性ボツリヌス症
(ボツリヌス中毒)
創傷ボツリヌス症 乳児ボツリヌス症
発症様式 生体外毒素型 生体内毒素型 生体内毒素型
年 齢 全ての年代 小児、薬物中毒者etc. 生後3週〜8か月
性 別 男=女 男>女 男=女
毒素型 A、B、E A、Bが多い AB(C、E*、F*)
毒素吸収部位 小腸上部 創傷箇所 大 腸
原因食品 いずし、キャビア
からしレンコンetc.
─── ハチミツ、ほか
潜伏期間 12〜36時間(〜14日) 不 明 3〜30日
臨床症状
 発 熱 な し あ り 通常なし
 重要症状 球麻痺、神経麻痺 同左(発熱の有無のみ)
floppy infant
便秘、神経麻痺
SIDSとの関連 な し 不 明 深い関連がありそう
致死率 約10〜20% 約15% 1.3〜2.9%以下
予防法 摂食直前の加熱 な し 一歳未満の幼児には
ハチミツを与えない
抗毒素血清療法 可及的早期に必須 可及的早期に必須 勧められない**

 ※注意
 (*) :それぞれE型毒素産生菌(Cl. butyricum)、F型毒素産生菌(Cl.baratii)によるもの
 (**):抗毒素血清が乳児ボツリヌス症の経過や予後に好影響があるかどうか不明。
    さらにアナフィラキシーや血清病をおこす可能性もある。







acute human immunodeficiency virus type-1感染の症状

 ヒト免疫不全ウイルス-I型(HIV-I型)感染症の症状
 発熱(80〜90%以上)> 倦怠感(70〜90%以上)> 皮疹(40〜80%以
 上)> 頭痛(32〜70%)> リンパ腺症状(40〜70%)> 咽頭炎(50〜
 70%)> 筋肉痛または関節痛(50〜70%)> 吐き気・嘔吐または下痢
 (30〜60%)> 盗汗(50%)> 無菌性髄膜炎(24%)> 口腔内潰瘍(10
 〜20%)> 陰部潰瘍(5-15%)> 血小板減少症(45%)> 白血球減少
 (40%)> 肝酵素増加(21%)







EBウイルス関連疾患と抗ウイルス抗体価

VCA抗体 EA抗体 EBNA抗体
IgM IgG IgA IgG IgA IgG
未感染者 (-) (-) (-) (-) (-) (-)
既感染者 (-) (+) (-) (-) (-) (+)
IMN
 急性期 (++) (+) (-) (+) (-) (-)
 回復期 (-) (++) (-) (+) (-) (-)
 回復後 (-) (+) (-) (-) (-) (+)
VAHS (+)〜(-) (++) (-) (++) (-) (-)〜(+)
慢性EBV感染 (+)〜(-) (++) (-) (++) (-) (-)〜(+)
Burkitt (-) (++) (-) (++) (-) (++)
上咽頭癌 (-) (++) (+) (++) (+) (++)
日和見リンパ腫 (+) (+++) (-) (+++) (-) (-)〜(+)
Hodgkin病 (-) (++) (-) (++) (-) (+)







重症熱帯熱マラリアの基準(WHO、1990)

 ○脳性マラリア
  熱性痙攣、髄膜炎、脳炎と区別する

 ○高度の貧血
  Ht<15%、Hb<5g/dl(正球性貧血)

 ○腎不全
  尿量<400ml/24h

 ○肺水腫またはARDS

 ○低血糖
  血糖値<40mg/dl

 ○循環虚脱
  収縮期血圧<70mmHg

 ○自然出血
  歯肉、鼻、消化管からの自然出血あるいはDICの基準に合致

 ○反復性全身痙攣
  熱性痙攣と区別する

 ○アシドーシス
  動脈血PH<7.25、血清HCO3<15mmol/l

 ○ヘモグロビン尿症・黒水熱

 ※脳性マラリアに勧められない薬剤
  ステロイド、抗炎症薬、低分子デキストラン抗浮腫薬(マニトールな
  ど)、アドレナリン、ヘパリン、プロスタサイクリン、トレンタール、高
  圧酸素療法、サイクロスポリンA、免疫血清







風邪症候群、風邪様症状と嘔吐・下痢など胃腸症状の関係

 a.風邪の原因が下痢を起こす場合
  特に乳幼児はかぜに伴って嘔吐、下痢、腹痛、食欲不振など消化器症状を
  合併を認めることが多い。インフルエンザではウイルス型、年齢、流行
  年、報告者によって差がある。小児に多く成人では少ない。小児の報告で
  は下痢の合併は2〜21%となっている。

 b.下痢の原因が風邪症状をおこす場合
  1.ロタウイルス感染症
   ・小児の冬季の代表的な消化器疾患
   ・6か月〜3歳の乳幼児を中心に流行。年長児や成人の場合もある。
   ・嘔吐(90%以上)、下痢(ほぼ100%)、発熱が主症状
   ・約1週間で軽快
   ・咳、鼻水などの呼吸器症状を30〜40%に認める。

  2.小型球形ウイルス(SRSV)感染症
   ・年間を通じてみられるが、晩秋から冬季に多い。
   ・成人のカキ関連非細菌性食中毒の大半、および学童・生徒のインフル
    エンザ様疾患の集団発生例の一部からSRSVが検出された。
   ・小児を中心に、散発または集団発生。
   ・嘔吐、下痢、腹痛が主症状。発熱はないか、あっても軽度。症状のあ
    る期間は3日以内。
   ・「集団かぜ」例では、発熱・頭痛・咳・咽頭痛はインフルエンザ群に
    多く嘔吐・下痢はSRSV群に効率だった。しかしSRSV群でも前記呼吸
    器症状は25%に認められる。

  3.腸管アデノウイルス感染症
   ・アデノウイルスには49の血清型あり。40と41型(F群、enteric
    adenovirus)は消化器症状を主に起こす。
   ・年間を通じてみられ季節はない。
   ・乳幼児の疾患で、殆どロタウイルス感染症の症状と同じだが、発熱が
    少ない。
   ・上気道症状を約30%に認める。
   ・(非腸管アデノウイルス感染症では発熱、上気道症状が強く、下痢・
    嘔吐は少ない)

 c.風邪と関係ないはずだが風邪と診断される場合
  ・軽症細菌性赤痢:ソンネ菌による
秋から冬の小児赤痢で、集団発生し、下痢・腹痛・嘔吐を伴う風邪と診
断され易い。
  ・腸管出血性大腸菌感染症(O-157など)でも病初期は風邪と診断される
   こともある。

 d.風邪と下痢の原因が別である場合
  呼吸器症状と消化器症状が同時期に起こっても原因が一つとは限らない。
  例えばロタウイルス感染時に同時にRSウイルスやアデノウイルスなどの呼
  吸器ウイルス感染が起こっている場合もある。

 e.風邪の治療薬が下痢を起こす場合
  抗菌薬使用時は偽膜性腸炎や薬剤関連出血性腸炎などの重篤な疾患を見逃
  さないことが大切。特に小児例では困難が予想される。







インフルエンザ脳症

 1.インフルエンザ脳炎
  ・一次性脳炎
   急性期に発症、CSFや脳組織よりウイルス検出、A(H1N1、スペイン)
   がパーキンソニズムを後遺症として残した
  ・二次性脳炎:自己免疫、アレルギーによる

 2.インフルエンザ脳症
  a.ライ症候群
   主に小児期、インフルエンザと水痘に多い、意識障害、CSF中にの細胞
   数8/mm^3 以下、肝機能障害、血中アンモニア上昇、低血糖出血傾向。
   ・二つのタイプがある
    1).5歳以上の年長児、インフルエンザと関連、発熱が治まったあと発
      症アスピリンとの関連あり。
    2).2歳以下の乳幼児、インフルエンザとの関連は弱い、解熱前に発
      症、アスピリンとの関連が薄い。我が国に多い。様々な先天性代謝
      異常の集合体か?。

  b.小児急性壊死性脳症
   インフルエンザ脳症の中で比較的多い。両側対称性に、視床、脳幹被蓋
   、大脳小脳の髄質に浮腫、点状出血。1歳前後の乳幼児、先行感染は高
   熱を伴うウイルス感染でインフルエンザと突発性発疹に多い。日本・台
   湾・東アジアに多い。発熱中、意識障害・痙攣・昏睡・除脳硬直。肝機
   能障害あるもアンモニアの上昇を認めない。CSF中蛋白増加あり。死亡
   率30%、原因不明。

  c.Hemorrhagic shock and encephalopathy(HSE)症候群
   乳幼児、hypovolemic shock、意識障害、痙攣、出血傾向(ないし
   DIC)、乏尿。高熱、下痢、代謝性アシドーシス、肝機能・腎機能異
   常。原因不明、予後不良。







【第13章の補遺】:中毒について

シアン中毒への対処([Cyanide Antidose Package]の使い方)

 ※注意:このキットは現在は販売中止になっている。あくまでも参考にして
     同じ薬物を用意しなければならない。

 A.シアン化合物解毒剤キット[Cyanide Antidose Package]の内容
  1).[SODIUM NITRITE] (NaNO2)  注射液 300mg/10ml 2A
    (亜硝酸ナトリウム)
  2).[SODIUM THIOSULFATE] (Na2S2O3)  注射液 12.5g/50ml 2A
    (チオ硫酸ナトリウム)
    (いずれもpH調整のためホウ酸・KCl・NaOHが加えてある。)
  3).[Aspirol](亜硝酸アミル吸入液) 0.3ml(5分間)  12A
  4).注射器
    10ml ディスポ注射器 22G 針付 1本
    50ml ディスポ注射器 針なし 1本
    20G 注射針 1本
  5).胃チュ-ブ 1本
  6).胃洗浄用 60ml 注射器 1本

 B.シアン化合物中毒解毒剤の薬理作用
  亜硝酸ナトリウム(NaNO2)はヘモグロビンをメトヘモグロビンに変え
  る。
  メトヘモグロビンはシアン・イオンをあらゆる組織から外し結合してシア
  ンメトヘモグロビンとなる。これは比較的毒性が低い。チオ硫酸ナトリウ
  ム(Na2S2O3)の作用はロダナ-ゼとして知られる酵素によってシアンを
  チオシアンに変換することにある。これを化学式で示すと次の如くである。

  NaNO2 + Hemoglobine (Hb) = Methemoglobine (Met-Hb)

  HCN + Met-Hb = Cyanmethemoglobin (CNMet-Hb)

  Na2S2O3 + HCN = HSCN

  NaNO2とNa2S2O3はシアン化合物や青酸中毒の治療に最適の組み合わせ
  である。この2剤をNaNO2・Na2S2O3の順に静脈内投与することによって
  致死量の約20倍のシアンソ-ダを投与した犬の解毒が可能であり、これは
  呼吸が停止してからでも有効である。心臓が拍動している限りこの方法に
  よる回復のチャンスは大変高い。NaNO2とNa2S2O3の同時投与は相加的
  な効果ばかりでなく明らかな相乗的効果がある。

 C.適応
  シアン化合物中毒の治療に用いる。

 D.注意
  NaNO と亜硝酸アミルの過剰投与は危険なメトヘモグロビン血症を招き致
  死的となることがある。[Cyanide Antidose Package]の1セットに含
  まれる量は成人の致死量は越えない。小児投与量は、体表面積(BSA)か
  体重より計算し過剰投与によりメトヘモグロビン血症を起こさないように
  しなければならない。
  もしも過剰のメトヘモグロビン血症の徴候(青い皮膚や粘膜、おう吐、
  ショック、昏睡)が進行するようならば、1%メチレンブルー溶液を静注す
  べきである。全投与量2mg/kgを5〜10分間かけて投与し、更に必要であ
  れば1時間後に繰り返すべきである。
  更に、酸素吸入と全血輸血を考慮しなければならない。

 E.投与量と投与方法
  緊急事態に先駆けてこのパッケ-ジの正しい使用法に馴れておくべきであ
  る。シアン中毒は急速に死の機転をとり何時間も生存することは稀であ
  る。死亡なせない為には迅速な診断と特異的な解毒剤を投与することであ
  る。貴重な時間を失ってはならない。診断が疑わしい場合でも治療は直ち
  に行われるべきである。最良の結果を得るためには、医師は予め次の手順
  について精通しているべきである。

  1.助手に亜硝酸アミルのアンプル[Aspirol]の割り方を指導する。
   1度に1個をハンカチの中で割り患者の口の前に15秒間当て、15秒間休
   む。これをNaNO2が投与出来るまで続ける。持続的な亜硝酸アミルの投
   与は適切な酸素化を妨げるため、間欠的に投与することが重要である。

  2.亜硝酸アミルの投与を中止し、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)300mg
   [3%溶液10ml]を2.5-5ml/分の速度で静注する。小児投与量は6-
   8ml/BSA(約0.2ml/kg体重)であり10mlを越えてはならない。

  3.その直後にチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)12.5g[25%溶液50ml]
   を注入する。小児投与量は7g/BSAであり12.5gを越えてはならない。
   これにはおなじ静脈と針を用いて良い。

  4.もしも経口的に毒物が入ったものなら、できるだけ速やかに胃洗浄を行
   わなければならないが、そのために上記の治療が遅れてはならない。
   胃洗浄は可能であれば医師か看護婦の第三者が行う。正確な診断を待つ
   ことなく迅速な処置を行わなければならない。
   患者は最低24〜48時間の監視が必要である。もしも中毒症状が再燃し
   たら、亜硝酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムの両者を初回の1/2量づ
   つを繰り返し投与すべきである。たとえ患者が完全によくなったように
   見えても初回投与から2時間後に予防的に投与しなければならない。
   もしも呼吸が停止しても脈が触れるならば直ちに人工呼吸を行わなけれ
   ばならない。蘇生そのものが目的ではなく心拍を維持することである。
   亜硝酸アミルを含ませたスポンジ・ガ-ゼかハンカチを患者の鼻の上に
   置いておくべきであり、これによって呼吸が再開するのを促すことが期
   待できる。呼吸再開の徴候が現われたなら速やかに上記の液を注入すべ
   きである。

 F.シアン中毒の原因
  ある種の植物は遊離青酸や青酸グリコシドを作り、人や動物の中毒の原因
  となる。
  この青酸は、これらの植物ではすべてのアミノ酸を完全に蛋白に変換でき
  ないためであると云われている。即ちこれは蛋白代謝の副産物である。ビ
  タ-ア-モンド・桜んぼ・プラム・モモ・アプリコット・りんご・ナシ等の
  種やカサバ・ある種の竹の芽等はある量を摂取すれば人にシアン中毒の症
  状を起こし得る。ウワミズザクラ(Chokecherry)・矢草(arrow gra-
  ss)・スダン草(Sudan grass)やある種のモロコシは青酸を含んでいる
  ため家畜類の死亡を起こし得る。ウワミズザクラによる人の中毒も報告さ
  れている。
  青酸ソ-ダや青酸カリは治金の分野で広く使われており、金や銀の鉱石か
  らの抽出や電気メッキ、金属の洗浄、有機物の合成、ハゲ隠しや土壌の消
  毒に利用される。
  青酸は家ネズミ・ドブネズミ・蛾・南京虫・ゴキブリやヒメマルカツブシ
  虫に汚染された船舶・兵舎・海軍基地・大きなビル・製粉所や一般家屋の
  薫蒸消毒にもっとも有効である。また柑橘類につく尺取虫の殺虫にも使わ
  れる。また各種の商品、果肉・豆・エンドウ豆・各種の種や梱包された綿
  などは真空室で青酸ガスで薫蒸される。

 G.診断
  死亡する前にシアン中毒の診断をするためには、体液のシアン化合物を化
  学的検査によって証明することが必須であるが、迅速かつ暫定的な診断と
  しては状況証拠で充分である。もしシアン化合物を扱う人や薫蒸施設の近
  くで働いている人が突然病気になったらシアン中毒と考えるのが妥当であ
  るし、もしも意識不明で発見されシアン化合物の入れ物が近くにあれば自
  殺企図が考えられる。臨床的には、呼気にビタ-・ア-モンド油の臭がすれ
  ばシアン中毒の可能性が高いが、なくても否定はできない。他の非特異的
  な症状として頻呼吸(後に遅くなりあえぎ呼吸となる)・頻脈・おう吐・
  ケイレンがあり、昏睡やチアノ-ゼに至る。シアンの毒性は、酸素利用を
  促がす触媒の働きを障害することによって細胞呼吸を抑制することにあ
  る。毛細血管で酸素は吸収されないため静脈血は鮮紅色である。したがっ
  てチアノ-ゼは末期の症状であり、循環不全が進行することによって現わ
  れる。もしも経口的に服毒したと疑われる場合、胃内は空にし、内容物を
  分析しなければならない。もし青酸ガスによる中毒が疑われる場合は、
  20mlの静脈血を採取し同様に分析しなければならない。

 H.緊急時の準備
  緊急時に先駆けこのバッケ-ジの内容の正しい投与法が指導されなければ
  ならない。シアン中毒の治療を成功させるには、次のキットを救急室・救
  急車・実験室・薫蒸施設に設置すべきである。
  亜硝酸アミル12アンプル・亜硝酸ナトリウム(滅菌水10mlに300mg)2
  アンプル・チオ硫酸ナトリウム(滅菌水50mlに12.5g)2アンプル・22G
  針付の10ml注射器1本・50mlの滅菌ディスポ注射器1本・20Gの滅菌
  ディスポ針1本・胃チュ-ブ1本(薫蒸施設では必要ない)・60mlの非滅
  菌注射器1本・駆血帯1本である。
  防腐剤の付加によりこれらの溶液は数年間安定である。しかし、注射時に
  滅菌蒸溜水で溶解するように乾燥結晶のアンプルとすることも可能であ
  る。もしアンプルが無理であれば亜硝酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウム
  を別々に分包しておき、滅菌水かそれも無理な場合は水道水で溶解する。
  そしてその溶液を速やかに注射する。緊急でシアン中毒の治療に用いる場
  合、消毒操作は省略しても許される。動物実験では薬剤の溶液が滅菌され
  ていなくても静注によって感染を起こすことは極めて稀である。もし筋肉
  内や皮下に注射されると膿よう形成の頻度は上昇する。
  亜硝酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムの組み合わせはシアン合成植物の
  摂取による羊や牛の中毒の治療にも使える。

 I.シアン中毒治療の知識
  適切な治療が行われないと、シアン中毒は急速に死の機転を取る。シアン
  の被爆にともなう循環虚脱、呼吸困難、皮膚のチアノ-ゼ等の症状は早急
  な処置を必要とする。

 J.初期治療(現場での処置)
  1.患者を毒物で汚染した場所から移動する。

  2.医師を直ちに呼ぶ

  3.もしも患者の呼吸が止まっていたなら、呼吸が回復するまで人工呼吸を
   行う。
   呼吸が回復してからも必要があれば更に人工呼吸を続ける。これは
   100%酸素で人工呼吸器か手押しバックによって行う。もしもそのどち
   らもなければ背臥位圧迫法か口対口人工呼吸を行う。
  ※注意:十分な気道を確保することが任務である。

  4.助手は[Amyl Nitrite Inhalant,USP:Aspirol(亜硝酸アミル)]の
   アンプルを壊し、ハンカチ-フの中に入れて患者の口の前に15秒毎に15
   秒間あてる。これを繰り返す。

  5.皮膚に付いたシアンをすべて洗い流す。シアンで汚染した衣服はすべて
   取りのぞく。

  6.患者の保温を保て。

 K.特異的治療 (医師または看護婦によって使用する)
  1.静脈注入の準備ができるまで直ちに酸素を投与する。

  2.酸素同様に[Amyl Nitrite Inhalant]を2〜3分毎に15-30秒間投与
   する。

  3.[Aspirol Amyl Nitrite]の投与を中断し、[SODIUM NITRITE]
   300mg/10ml を2.5-5ml/分の速度で静注する。小児投与量は、6-
   8ml/BSA(およそ0.2ml/kg)であり10mlを越えてはならない。

  4.その直後に成人では[SODIUM THIOSULFATE]12.5g/50mlを投与す
   る。
   小児投与量は7g/BSAであり12.5gを越えてはならない。
   おなじ静脈と針を用いてよい。

  5.もしも経口したものであればできるだけ速やかに胃洗浄を行わなければ
   ならないが、そのために上記の治療が遅れてはならない。胃洗浄は可能
   であれば医師か看護婦の第三者が行う。正確な診断を待つことなく迅速
   な処置を行わなければならない。
   患者は最低24-48時間の観察が必要である。もしも中毒症状が再燃した
   ら、[SODIUM NITRITE]と[SODIUM THIOSULFATE]の両者を初回
   の1/2量づつ投与しなければならない。たとえ患者が完壁によくなった
   ように見えても初回投与から2時間後に予防的に投与しなければならな
   い。

 L.注意
  [SODIUM NITRITE]も[Amyl Nitrite]も過剰投与は危険なメトヘモ
  グロビン血症を招き致死的となることがある。[Cyanide Antidose
  Package]の1セット含まれる量は成人の致死量は越えない。小児投与量
  は、体表面積か体重より計算し過剰投与によりメトヘモグロビンを起こさ
  ないようにしなければならない。
  もしも過剰のメトヘモグロビン血症(青い皮膚や粘膜、おう吐、ショッ
  ク、昏睡)になったら、1%メチレンブル-溶液を静注する。全投与量
  2mg/kgを5-10分で投与し、更に必要であれば1時間後に繰り返す。更
  に、酸素吸入と全血輸血を考慮しなければならない。







【第14章の補遺】:薬物の副作用など

シサプリド(アセナリン、リサモール)

 1.アゾール系抗真菌薬の併用で低カリウム血症、心電図異常・不整脈(QT延
  長、torsades de pointes)の発現
 2.マクロライド系抗菌薬の併用で意識障害、心電図異常・不整脈(QT延長、
  torsades de pointes)の発現

 ※理由
  a.シサプリド濃度の上昇で心電図異常(QT延長)が生じる。
  b.アゾール系抗真菌薬やマクロライド系抗菌薬はシサプリドの肝代謝を阻害。







QT延長を来す薬剤

 1. Ia群抗不整脈薬(キニジン・アミサリン・リスモダン・シノール等)
 2. III群抗不整脈薬(アンカロン)
 3. IV群抗不整脈薬:ベプリジルのみ
 4. 三環系抗鬱薬、フェノチアジン系抗精神薬
 5. その他
   プロブコール、H2ブロッカー(ガスター・タガメット)、マクロライド
   (エリスロシン、クラリスロマイシン等)、抗アレルギー剤(テルフェナ
   ジン、アステミゾール等)、ペンタミジン(カリニ肺炎治療剤)

 ※その他の状態
  a.電解質異常
   低K血症、低Ca血症、低マグネシウム血症
  b.栄養障害
   飢餓、神経性食思不振症、リキッドプロテインダイエット
  c.徐脈
   洞機能不全、完全房室ブロック
  d.脳血管障害
   SAH、脳出血、脳外科手術後







病態におけるNSAIDの選択(非ステロイド系消炎鎮痛剤の投与についての配慮)

 a.胃の弱い人
  ・プロドラッグ
   ロキソニン、フルカムなど
  ・プロピオン酸系(下記)、COX2選択性阻害の強い薬剤
   ハイペン、ボルタレン、ペオン、ロキソニン、フェルデンなど
  ・経皮吸収型薬剤
   ナパゲルン軟膏

 b.腎障害患者・老人
  スリンダック、プロピオン酸系

 c.肝障害患者
  プロピオン酸系

 d.薬疹の出易い患者
  プロピオン酸系

 e.糖尿病でトルブタミドやアセトヘキサミドを投与中の患者
  ・フェニルブタゾンやピラゾロン系(下記)の消炎鎮痛剤を避けるべきである。
  ・他の傾向糖尿病剤も同様に考えて対処すべきである。

 ※プロピオン酸系
  イブプロフェン(ユニプロン)、ケトプロフェン、ナプロキセン(ナイキ
  サン)、ロキソプロフェン(ロキソニン)

 ※ピラゾロン系(ピリン系)
  スルピリン、アミノピリン、アンチピリン







悪性症候群(Caroffの診断基準、1993)

 1.発症前7日以内の抗精神薬の使用の既往(デポ剤の場合は2〜4週前の使用)
 2.高熱:38度以上
 3.筋固縮
 4.以下のうち5項目
  ・意識障害
  ・尿失禁
  ・頻脈
  ・CPK(CK)の上昇あるいはミオグロビン尿
  ・呼吸促迫あるいは低酸素症
  ・白血球増加
  ・発汗あるいは流涎
  ・ 代謝性アシドーシス
  ・振戦
 5.他の薬物性、全身性、精神疾患 の除外







繁用薬物で起こる頻度の高い障害・疾患

 1.筋肉痛、筋けいれん、脱力、CPK高値(CK高値)
  高脂血症薬、β-blocker、降圧利尿剤、甘草(偽アルドステロン症)

 2.筋力低下、筋萎縮
  ステロイド長期使用

 3.脱力、転倒
  緊弛緩薬、抗不安薬、睡眠薬

 4.精神症状
  (1).鬱病症状
    IFN-α、ヒスタミンH2-blocker、カルシウム拮抗剤、β-blocker
  (2).譫妄、意識障害
    抗不安薬、睡眠薬、抗鬱薬、ヒスタミンH2-blocker、抗パーキンソン薬
  (3).記憶障害
    睡眠薬、抗コリン薬

 5.振戦
  呼吸器用薬、β-stimulant

 6.尿閉
  抗鬱薬、鎮痙薬、頻尿治療薬

 7.薬物性パーキンソニズム
  消化器用薬・鎮吐薬、精神神経症状改善薬、脳循環代謝改善薬、抗精神
  薬、一部の降圧剤

 8.悪性症候群
  消化器用薬・鎮吐薬、精神神経症状改善薬、脳循環代謝改善薬、抗精神
  薬、一部の降圧剤







薬剤性腎障害のまとめ

 1型:過敏反応
  ・薬剤投与開始後約2週頃から、発熱、発疹、関節痛などの全身症状
  ・蛋白尿あるいは血尿あるいは腎機能障害の進行
  ・血沈亢進、CRP陽性、IgE抗体増加、好酸球増加、尿中に好酸球出現
  ・ガリウムシンチで腎臓全体に取り込み

 2型:血流障害
  ・NSAID:プロスタグランジン合成阻害作用
  ・β-blocker:糸球体血流減少
  ・ACE阻害薬:糸球体濾過値低下
  ・シクロスポリン、タクロリムス:輸入細動脈の収縮

 3型:尿細管機能異常、間質障害
  ・薬剤の直接作用
  ・自己免疫性尿細管間質性腎炎
  ・電解質異常、酸塩基平衡異常
  ・尿中β2-MG、α1-m、NAGの検査が有用

 4型:尿細管あるいは尿管閉塞
  ・横紋筋融解:ミオグロビン
  ・抗腫薬:尿酸、MTX、アシクロビル
  ・後腹膜線維症:ヒドララジン、メチルドーパ

 5型:糸球体障害
  ・金製剤、ブシラミン:膜性腎症
  ・D-ペニシラミン:抗GBM抗体、ANCA陽性半月体形成性腎炎
  ・NSAIDの一部:微小変化型ネフローゼ
  ・MMC:溶血性尿毒症症候群







【第15章の補遺】:心電図など

発作性頻拍症(PAT、PSVT)の治療(Expert-MLより、橋本先生)

 1.いきこらえ(息を止めて力む)

 2.頸動脈マッサージ(片方だけにして下さい。)
両方やると心停止して失神することあり注意

 3.目玉押さえ
網膜剥離をおこしてしまうことあり(良く効く)
敬遠されがち、これも片目にすること

 4.ATP注のone shot
いずれも一時的に心停止を見ますが、SSSがないなら戻るので大丈夫

 5.ワソラン注(5mg)ゆっくりiv (5-10分)
100ml+ワソラン5mgでこれくらいの時間で
--------------------------------

 6.midlな方法
ジギラノーゲンC DIV(時間がかかるのが難点)
--------------------------------

 7.過激な方法で
同期型カウンターショック(即時に取れる)

 8.カテーテルアビュレーション(カテーテルによる手術)
--------------------------------

 9.予防
  ・ワソランまたはリスモダン 3T 3x
   ラニラピット1T 1x
  いずれもtriggerとなる上室性不整脈を減すことやre-entryのタイミング
  をずらしてやるということでしょうか。

 ※注意:タンボコールやアンカロンは大学で使って欲しい。







【第17章の補遺】:高齢化の問題・老人問題など

平成9年(() 内は平成6年)の人口動態統計より

 1.死亡数と死亡原因
  総  数
死亡数 死亡率 死亡数 死亡率 死亡数 死亡率
全 死 因 913398 730.9 497815 813.3 415583 651.9
(875905) (706.0) (476077) (782.5) (399828) (632.3)
────────────────────────────────────
悪性新生物 275340
(30.0%)
220.3 167039 272.9 108301 169.9
平成6年 → (243585)
(27.8%)
(196.3) (146846) (241.4) (96739) (153.0)
※悪性新生物の全死亡に対する割合は平成8年は30.3% (=271183/896221) で 横ばい
心 疾 患 140076
(15.3%)
112.1 69722 113.9 70354 110.4
平成6年 → (159485)
(18.2%)
(128.5) (78817) (129.6) (80688) (127.6)
 ※心疾患の全死亡に対する割合は平成8年は15.4% (=138229/896221) で 3位だった
脳血管疾患 138645(15.2%) 110.9 65769 107.4 72876 114.3
平成6年 → (120225)(13.7%) (96.9) (55502) (91.2) (64723) (102.4)
 ※脳血管疾患の全死亡に対する割合は平成8年は15.7% (=140366/896221) で 2位だった
  (※なお、平成7・8年は心疾患と脳血管疾患が僅かの差で逆転している)
  (※平成6〜9年において死因の約60%を上記3疾患が占めている)
────────────────────────────────────
肺 炎 等 78855 63.1 42283 69.1 36572 57.4
平成6年 → (89789) (72.4) (50499) (83.0) (39290) (62.1)
不慮の事故 38875 31.1 25135 41.1 13740 21.6
平成6年 → (35934) (29.0) (23976) (39.4) (11958) (11.9)
自 殺 23465 18.8 15886 26.0 7579 11.9
平成6年 → (20889) (16.8) (14044) (23.1) (6845) (10.8)
 ※平成9年は自殺と老衰がついに逆転した。
 ※自殺は徐々に増加:2.4% (平成6年) → 2.5% (平成8年) → 2.6% (平成9年)
老 衰 21404 17.1 6376 10.4 15028 23.6
平成6年 → (23452) (18.9) (7327) (12.0) (16125) (25.5)
腎 不 全 16568 13.3 7692 12.6 8876 13.9
平成6年 → (18768) (15.1) (8985) (14.8) (9783) (15.5)
 ※平成6年は「ネ・腎 炎」としての統計
肝 疾 患 16548 13.2 11346 18.5 5202 8.2
平成6年 → (16432) (13.2) (11201) (18.4) (5231) (8.3)
 ※平成6年は「肝硬変 等」としての統計
糖 尿 病 12351 9.9 6283 10.3 6068 9.5
平成6年 → (10868) (8.8) (5274) (8.7) (5594) (8.8)

  ※順番は男女合計の順番。
   男は上から1-2-3-4-5-6-10-9-7-11。
   女は上から1-3-2-4-6-8-5-7-10-9。
  ※男の第8位は慢性閉塞性疾患で死亡数は8720で死亡率は14.2。
  ※結核の死亡数は2736で死亡率は2.2、第22位。

 2.出生数など(20歳代の母親による出生数が著しく減少)
  a.1191681人(平成8年:1206555人)
  b.合計特殊出生率(一人の女子が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間
   に生むとした時のこどもの数、2.08以上あれば人口を長期的に維持でき
   ると考えられている):1.39







【第18章の補遺】:肝臓疾患・肝炎・薬物性肝障害など

劇症肝炎の基本的治療方針

 A.肝予備能の見方と考え方
  a.直接ビリルビン/総ビリルビン比(D/T比)
   直接ビリルビンがどんどん減るのが問題。劇症型でない急性肝炎では
   D/T比は大体0.7以上ある。つまり急性肝炎で黄疸がでるのは抱合能より
   排泄能が冒された為で、肝不全が進行すると抱合能が冒されてくる。
   見た目の黄疸は同じでも、ビリルビン代謝異常の内容が全く違う。D/T
   比が0.09あたりから昏睡で死亡する。
  b.BUNが下がるほど重症
   ウレアサイクルで作るBUNの値が下がれば下がる程肝臓機能が低下している。

 B.基本的治療方針
  1).肝補助の強化により回復しうるもの
   ・A型劇症肝炎の大部分
   ・B型劇症肝炎(急性感染)の大部分
   ・HCVマーカー陰性の非A非B型劇症肝炎の一部
   ・E型劇症肝炎
   ・中毒性肝障害(パラセタモーる中毒など)

  2).肝補助と同時に原病対策の必要なもの
   a.インターフェロン+ステロイド+サイクロスポリン
    ・A型劇症肝炎の一部(ウイルス増殖が持続する場合)
    ・B型劇症肝炎の一部(ウイルス増殖が持続する場合)
    ・HBキャリアの急性発症
    ・C型劇症肝炎(重感染を含む)
    ・HCVマーカー陰性の非A非B型劇症肝炎の大部分
    ・B+D型劇症肝炎
   b.ステロイド+サイクロスポリン
    ・自己免疫性肝炎の劇症化
    ・アレルギー性薬剤性肝炎
   c.D-ペニシラミン
    ・ウイルソン病の劇症化







【第19章の補遺】:中枢神経疾患

運動ニューロン疾患の分類

A.原発性運動ニューロン疾患
1).特発性(孤発性)
a.筋萎縮性側索硬化症(ALS)
・進行性球麻痺
・痴呆を伴う筋萎縮性側索硬化症
・グアム島・紀伊半島の筋萎縮性側索硬化症
b.(脊髄性)進行性筋萎縮症((S)PMA)
c.原発性側索硬化症

2).遺伝性
a.常染色体優性
・家族性筋萎縮性側索硬化症
・痴呆を伴う筋萎縮性側索硬化症
・脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)
遠位型、肩甲腓骨型、顔面肩甲上腕型
b.常染色体劣性
・若年発症筋萎縮性側索硬化症(チュニジア)
・脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)
第1型(急性幼児性):Werdnig-Hoffmann
第2型(慢性幼児性)
第3型(慢性若年性):Kugelberg-Welander
第4型(慢性成人発症)
c.伴性劣性
・球脊髄性筋萎縮症(Kennedy)

B.続発性運動ニューロン疾患
1).感染性
・急性ポリオ脊髄前角炎
・ポリオ後症候群

2).自己免疫性
・抗ガングリオシド抗体を伴う運動ニューロパチー
・paraproteinemiaを伴う運動ニューロパチー
・リンパ腫を伴う運動ニューロん疾患

3).代謝性
・副甲状腺機能亢進症
・Hexosaminidase欠損症(Tay-Sachs)

4).神経毒性
・神経ラシリズム(neurolathyrism)
・鉛ニューロパチー

C.運動ニューロン変性を伴う他の神経変性疾患
・Machado-Joseph病
・神経有棘赤血球症(neuroacanthocytosis)
・プリオン病







神経難病疾患別登録数

 1.多発性硬化症 6881人
 2.重症筋無力症 11035人
 3.スモン 2005人
 4.筋萎縮性側索硬化症 418人
 5.脊髄小脳変性症 15864人
 6.パーキンソン病 45799人
 7.ハンチントン病 489人
 8.ウィリス動脈輪閉塞症 6669人
 9.シャイ・ドレージャー症候群 524人
10.クロイツフェルド・ヤコブ病 147人
11.神経線維腫症 -- 人 (平成10年5月より)







急性散在性脳脊髄炎(ADEM)

 A.原因(小児におおい、CNSの脱髄性疾患)
  1.麻疹、水痘、インフルエンザ、その他のウイルスおよびマイコプラズマ感染。
  2.ワクチン接種後
  3.突発性に自己免疫機序による発症

 B.ワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎
  1.接種後4〜21日後に発症
   4日後の12歳男児例(1980)、13日後の例(1988)

  2.インフルエンザワクチンをうける小児は、インフルエンザ脳症の好発年
   齢のためワクチン接種との因果関係を確実に証明できない。

  3.厚生省 - 平成9年度報告で1995年の岩手から沖縄までの14県では、感
   染と関連する
   と考えられた急性神経疾患は8100人おり、82例は一か月以内のワクチ
   ン接種が確認された。8100人中ADEMは15人でそのうち一か月以内の
   ワクチン接種は0人であった。(1994〜1995年では上記14県でのイ
   ンフルエンザワクチンによるADEMは0人。インフルエンザ感染による
   脳炎/脳症が15人もいるということのほうが重大)

 C.インフルエンザ(ワクチン接種後)における急性散在性脳脊髄炎
  1.症状、症候
   急な発熱、頭痛、項部硬直、ケルニッヒ兆候、意識障害、けいれん、片
   麻痺、視力低下、小脳失調、脳神経症状などや対麻痺、膀胱障害のうち
   の二つ以上の症状を認め経過は単相性。

  2.必要な検査
   a.一般検査
    MSに比べて発熱、CRP陽性、白血球増加など炎症反応が強い。
   b.CSF異常
    圧は正常〜軽度上昇、無色透明、細胞数は軽度増加〜正常範囲でリン
    パ球・単核球が主体。糖は正常、蛋白は正常〜軽度増加。
    オリゴクローナルIgGやミエリン塩基蛋白が陽性に出現すればより本
    症を疑う。
  c.脳波
   徐波化が主体
  d.CT、MRI
   MRIが最も感度が高いがT2強調画像で白質を中心とした二か所以上の異
   常信号域が診断に有用。CTでは大脳白質に低吸収域あり、造影剤で造影
   効果がみられることがある。

  3.治療
   ステロイドが有効
   メチルプレドニゾロン30mg/kgまたは水溶性プレドニン1〜2mg/kg。

  4.予後
   症状は重篤でも機能の完全回復が期待できることが多いと考えられ、後
   遺症を残すことは少ないとされているが脳ヘルニアを起こすこともある
   ので早期発見、早期治療が重要。







抗神経抗体

抗  体 臨床病理 合併腫瘍 反応する神経組織
抗Hu抗体 傍腫瘍性脳脊髄炎 /
感覚性ニューロパチー
肺小細胞癌 中枢・末梢神経細胞核
(細胞質とも弱く反応)
抗Yo抗体 傍腫瘍性小脳変性症 卵巣癌、子宮癌、乳癌 小脳Purkinje細胞の
細胞質
抗Tr抗体 傍腫瘍性小脳変性症 Hodgikin病 小脳Purkinje細胞の
細胞質
抗Ri抗体 傍腫瘍性眼球クローヌス・
ミオクローヌス症候群
乳 癌 中枢の神経細胞核
抗amphiphysin抗体 stiff-man症候群 乳癌、肺小細胞癌 中枢神経シナプス
抗VGCC抗体 Lambert-Eaton
症候群
肺小細胞癌 神経筋接合部
抗Recoverin抗体 傍腫瘍性網膜症 肺小細胞癌、乳癌、
婦人生殖付属器癌
網 膜







抗Hu抗体に関連する症候

障害部位 臨床病理 臨床症状
大脳辺縁系 傍腫瘍性辺縁脳炎 痴呆、精神症状
小 脳 傍腫瘍性小脳変性症
(亜急性小脳変性症)
小脳性運動失調
脳幹(脳神経核)   嚥下障害、めまい、難聴
外眼筋麻痺、眼球クローヌス
脊髄前角 傍腫瘍性運動性 neuropathy 筋力低下、筋萎縮
後根神経節 傍腫瘍性感覚性 neuropathy
(亜急性感覚性neuropathy)
全感覚障害、感覚性運動失調
自律神経節 傍腫瘍性自律神経性 neuropathy 起立性低血圧、陰萎、発汗障害







【第20章の補遺】:膠原病・膠原病類縁疾患

抗好中球抗体(ANCA)の種類と関連疾患

種  類 対応抗原 関連疾患 陽性率
C-ANCA
 (cytoplasmic ANCA)
 好中球細胞質全体が染色
 される
proteinase3 (PR3) ・Wegener肉芽腫症 80〜95%
C-ANCA
 (perinuclear ANCA)
 好中球細胞核周囲の細胞
 質が染色される
myeroperoxidas (MPO) ・顕微鏡的多発血管炎
・Churg-Strauss症候群
・壊死性半月体形成性腎炎*
 (pauciimmune型)
・正常血圧強皮症腎
40〜80%
〜70%
〜100%

〜100%
ラクトフェリン
カテプシン
エラスターゼ
・潰瘍性大腸炎
・その他炎症性腸疾患
40〜80%
10〜40%

 ANCA:anti-neutrophil cytoplasmic antibody
 壊死性半月体形成性腎炎:時に肺出血を起こし肺腎症候群ともいわれる